188.Sな彼女とNな彼

いつか命が尽きるのならば



紀樹に抱かれる幸せの中で



今すぐ終わりにして欲しい。





「実結! ちょ、タイム!」



「もう終わり?」




心も体も全部が紀樹を欲した。



離したくない。離れたくない。




「俺はもうそんな若くないぞ(笑)」



「大丈夫。 あと一回だけ頑張って」




懐かしいピンクのナース服を脱ぐ。


退職祝いに入っていた私のライブ衣装。


ステージの上の後ろ姿がセクシーだったと


紀樹は動画を観る度に言っていた。




「ほんまに次で打ち止めやからな?」



「んじゃ、電気消すね」



「暗くしたら見えへんやろ」



「もう十分見たでしょうが(笑)。暗くしたい気分なの」




本当に最後。涙が滲む。



泣き顔は見られたくない。




「しゃーないな……」



「優しくしてね?」



「何ハジメテみたいな事を(笑)」



「ふふっ」




涙を堪えると体が震える。




「実結? 寒い??」




「うん。汗が引いて冷えてきちゃったかも」




紀樹がエアコンを止めると


部屋の中は静まり返った。




必死で涙を堪える。


溢れた涙をシーツで拭いながら


バレないように受け入れる。




終わった後、ふいに紀樹が顔を撫でた。




「実結、泣いてんの?」

 


ドキリとした。



「ううん。ちょっと頑張り過ぎたね。私も疲れたから少し眠りたい。紀樹、腕枕して?」




包み込まれる温もりに


睡魔が押し寄せる。


昨日は眠れなかったせいか


あっという間に深い眠りに落ちた。




「はやっ(笑)! 寝付き選手権ナンバー1やな……」




遠い声を聞きながら



紀樹の腕の中で幸せな夢を見ていた。





目が覚めたら夢も現実も終わる。





何も知らない夢の中の私は



純白のドレスを着て



緑に囲まれた山の上のお城で



真っ赤なバージンロードの前に立つ。





腕を組んで歩き出す相手の顔は



夢の私にさえ見えなかった。









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