187.Sな彼女とNな彼

オープンしたばかりのカフェに入って



向かい合わせに座り、一口水を飲んだ。




「何で今日は指輪してないん?」




紀樹が私の薬指を撫でる。




「ごめん。忘れちゃった」




ポケットの中にあるけれど


もう左手にすることは出来ない。




「ほな、今日は代わりにコレ着けてて」




指輪とお揃いの小さな誕生石の入った


四葉のクローバーのネックレス。




「へっ?! 何で……?」




いつの間に用意してたんだろう。




「誕生日にはちょっと早いけどな」




プレゼントは避けたかったのに。




「ありがとう……。貰っとくね」




紀樹が私の隣に座って



ネックレスを着けてくれる時



反射的に髪を上げた。




「ちょうど良かったな。"CLOVER"の中には"LOVE"が入ってるんやって。店員に売り込まれたわ(笑)」




そう言われて露店でアクセサリーを


売っていたのを思い出す。




「何乗せられてんのよ……(笑)」




わざわざ買ってくれたんだよね。



四葉のクローバーが見つからなかったから。




意地悪で優しい。



そんなモテそうな人は嫌い。



でも、好き。



大好きしかない。





アイスティーを飲み終えた。





「さてっと。買い物でも行く? 何か見たいもんがあるんやったら……」




「ううん。ホテル行かない?」





残りの時間は二人きりで過ごしたい。





「ええけど……。こんな明るい時間から大胆発言やな。こないだは最後まで出来んかったから夜まで待たれへんの?」




「……紀樹のバカ」





改めて思い出すと恥ずかしい。




今まで何回体を重ねて来たのか


もう数え切れない。



これで最後になるから


紀樹が空っぽになるまでしておけば


すぐに誰かに欲情しないで済むかな。



なんて


離れてからも捕まえておきたい。



馬鹿馬鹿しい願いばかりが


私の表面的な祈りとぶつかり合う。






初めて抱かれた夜。




紀樹の腕の中で幸せ過ぎて震えた。




好き過ぎても幸せ過ぎても


泣けちゃうなんて知らなくて


涙が止まらなかった。





「優しくするから」と涙をすくう紀樹が


「やっぱ無理かも(笑)」と笑うから


緊張も一緒に溶けていった。





あの夜に帰れるのなら。





ううん。





あの夜を忘れないように。





今の幸せを覚えていたい。










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