173.Sな彼女とNな彼

神様は意地悪だ。




肝心な願いは叶えてくれなかったのに



私の建前の願いは聞き入れた。





何年もずっと紀樹の会社には


女性は、社長の奥さんと


事務員の女の子が一人だけだった。




紀樹は女の子に嫌そうな顔をしないけど


その事務員さんは苦手なんだって


よく話していた。





そこに新しい事務員さんが加わった。





珍しく紀樹の電話の声が弾んでいた。




「新しい事務員がめっちゃおもろいねん(笑)」



「そうなんだ」



「うちのオカンと似てんねん」



紀樹のお母さんは見た目も中身も


大阪のおばちゃんって感じの


賑やかで面白い人だけど


若い女性の大阪のおばちゃんって


全然イメージがわかない。



「楽しい人が来て良かったね」



「そうやな(笑)」




ズキリと胸が痛む。



男の人はみんなマザコンだって


誰かが言っていた。




「勝手に俺の引き出しにお菓子入れてくるし、ほんま変なやつ」



「席近いんだ?」



「俺が仕事教えるハメになったから隣やねん」




紀樹の隣は私だったのに。




「へー、良かったね」



「良くないやろ。それに、タヌキとしか思ってないから余計な心配はしたらあかんで?」




タヌキって可愛いじゃん。




ちなみにもう一人の苦手な方は


キツネみたいだと言う。




「別に心配なんかしてないよ」



「毎日ポンポコ鳴いてるだけやから(笑)」



「タヌキはポンポコ鳴かないよ」



「ほな、何て鳴くん?」




はて?


タヌキの鳴き声とは??




「……タヌタヌ」



「絶対ウソやろ(笑)」





電話を切った後


タヌキの鳴き声の動画が送られてきた。




ポンポコでもタヌタヌでもない


可愛い鳴き声で鳴いていた。




やっぱりタヌキって可愛いよ。




紀樹の隣を私に返して欲しい。






私の病気はいつも「経過観察」で



思うよりタイムリミット長いんじゃない?



なんて油断をし始めた。




病院の梅の花が綺麗に咲いていて


紀樹と一緒に見たいな、なんて


呑気に考えていた。




私は自分のことばかりで


周りのことが何も見えていなかった。




病院から帰ると


またすぐに病院に戻って来いと


連絡があった。





嫌な予感がする。





私の体にヤバイ物が見つかったのかと


足が震える。





しかし



待っていたのは



入院病棟のベッドで寝ている



父の姿だった。











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