169.Sな彼女とNな彼

「紀樹は仕事と私とどっちが大事なの?!」




言ってはいけない言葉を口にしてしまう。




楽しみにしてた。




ボーナスの後だから


久々に遠出しようって


ハワイから帰って来てから


約束していた。





仕事が入った、ごめん。





まるでジョーカーみたいに


一枚で浮かれ気分をひっくり返す。


そんな切り札を何回も使わせた。





仕事は二人の将来のためだって


私も紀樹も自分に言い聞かせている。





責められない。


責めては駄目と思うほどに


焦りとイライラが募る。





ベッドに座って


感情を抑えようと必死な私の手を


紀樹は優しく握る。




「実結のが大事に決まってるやろ」




イラッとした。




「嘘つき! バカ紀樹っっ!!」




比べようなんかないやろって


前はそう言ったのに。


私の機嫌を取るために嘘をついた。




そういう嘘ならいらない。




欲しくない。




紀樹はムッとしている私の頭に手を回すと


素早く顔を引き寄せた。




咄嗟に手で紀樹の顔を押し返す。




「その手には乗らないんだから!」




「お前な~……」




ペチッと音がした部分をさすりながら


恨めしそうに私を見ている。




痛かったかな、と思ったけど


私が甘い顔をしているから


紀樹は全部を許されると思ってる。




「ちゅーだけで機嫌取れるなんて思わないでよねっ!」




「ごめんて……」




申し訳なさそうに謝る紀樹を


本当は責めたいわけじゃない。




「ドタキャン続きの後に寝坊して起きられないってどうなのよ?!」




朝早いと悪いから


待ち合わせは十時にした。


それでも妥協だった。




待ち合わせに来ない。



連絡もない。



寝てるのはわかってる。



インターホンにすら出ない。



隆人くんは最近はヘッドフォンで


オンラインゲームをしているから


ピンポンも電話も気付かない。




寒い中穏やかな気持ちで待てるほど


私は人間できてない。




「まだ昼前やんか」




「今日は埋め合わせしてくれるんじゃなかったの?」




「これからするって……」




紀樹の茶色い瞳に見つめられると


吸い込まれそうになる。




ドキッとして動けなくなると


唇を奪われた。




舌を入れられそうになるのを拒む。




「私は怒ってるんだから!」




もう少し反省させたい。




「そうやな」と言うと同時に


首筋に吸い付かれた。




「きゃっ! やめっ……」




驚いて開いた口を塞ぐようにキスをして


長い舌がねじ込まれた。




「んん……っ!」




胸が熱くなる。




溶けるようなキスに思考は奪われる。




体の奥が疼く。




キスから解放されても



もう何も考えられない。




紀樹が私の髪を撫でる。




「ほんまにやめて欲しい?」




やめないで。




もっとして欲しい、と思ってしまう。




あっさり負けてしまうのは嫌。




意地悪に見つめてくる目は


どうしようもない色気を放っていて


ドキドキしてしまう。




そっとベッドに押し倒されて



キスの続きと体を撫でる指先に



抗う理性なんてない。








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