141.Sな彼女とNな彼

待ちに待ったゴールデンウィーク。


待ちに待たせたゴールデンウィーク。




アジアの南の島旅行。


紀樹は高級リゾートを予約してくれた。


きっとサプライズが待ってる。




当日は紀樹が迎えに来るはずだったけど


ギリギリまで徹夜で仕事になったから


空港で待ち合わせに変更した。




私は父に送ってもらうつもりだったけど


父の体調が良くなかったから


電車で向かった。




スーツケースをガラガラ引きながら


朝の太陽に左手をかざす。



今日はエメラルドの指輪は右手にして


左手の薬指は空けている。




ニヤニヤが止まらない。





駅に着いた時


前を歩いていたポッチャリ女性が


改札から出てきた男性とぶつかって


持っていた書類が散らばった。




男性は謝りもせずに去って行った。



「大丈夫ですか?」



急いで駆け寄って書類を拾う。



「あ、全然。お姉さんの手が汚れちゃう」



「平気ですよ。はい、これ……」




渡そうとした書類を見て固まった。




離婚届。




ドラマでしか見たことない紙。




「あー、あはは。ごめんね。ありがとう」




女性は笑っていたが、その目は真っ赤だった。




不吉な予感がした。




婚姻届を書く前に離婚届を手にするなんて



縁起が良くない。




不安。




紀樹と付き合ってから


一度も感じたことのない感情が


私の未来に影を落とす。




いやいや、考えすぎだよ。




たまたま拾った書類が離婚届だっただけ。




大丈夫大丈夫。






空港で紀樹を見つける。




「タクシーで寝たから元気やで。ありがとう」



「良かった。飛行機でも一緒に寝ようね」



「夜いっぱい頑張らなあかんからな」



「バカ紀樹」





ほら、いつも通りだから。





透き通る青い海、泳ぐ熱帯魚。



はしゃいで笑って。



美味しい料理に、沈む夕陽。



お腹いっぱいで幸せで。



静かな夜に、二人きり。



愛し合って溶け合って。




こういう日々が続いていく。




永遠を誓い合う約束を今夜。




する、よね?




あれ?




グッスリ眠っている紀樹の頬を撫でる。




疲れたかな。




そっとキスをして私も眠る。





その晩、幸せな夢を見た。





お城で結婚式を挙げる夢。




いつか



男の子と女の子が一人ずつ。




家族四人で暮らしている夢。





私と紀樹、二人で描いている夢。








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