139.Sな彼女とNな彼

約束の一年を迎える一ヶ月前。




四月。




いつもの朝。




社内コンペの結果が出た。




箸にも棒にもかからない結果だったのは


紀樹とイチャイチャしてたからではなく


新しい才能に負けただけと信じたい。




"大賞 笹下 朔"



"優秀賞 野々村 莉世"




入社二年の二人が受賞した。




チーフの私を差し置いて


園子と朔くんが大賞受賞者なのも


複雑な気持ちではあるけれど


喜ばしいことには間違いない。




「朔くん、おめでとう」



「実結さんのご指導のおかげです」



「ふふっ。ありがとう」



「僕ちょっと社長に呼ばれたんで……」



朔くんは私にサーバー管理室の鍵を渡した。



「開けて来てもらえますか?すみません」



「いいよ」




今日のブルートゥイルの打合せは


大江さんと山田さん二人とも来るけど


先に山田さんが作業すると連絡があった。




去年から朔くんに任せていたから


サーバー管理室に行くのは久しぶり。




一つ上のフロアに上がり


備品室の隣のドアの鍵を開ける。




あれ?開いてる??



朔くん閉め忘れてたのかな。




そっとドアを開けて中へ進む。




「ノックくらいして欲しいんやけどな」




茶色い髪が振り返った。




「のっ、紀樹?!」



「昨日ぶり。間宮チーフ」



「何してるの?!」



「仕事やけど(笑)」



聞いてない。



「ここにはもう来ないって言ってたよね」



「体調不良の山田の代わり」



「そんな連絡来てない」



「松川課長には連絡して鍵も開けてもらったで?」



課長は社会人としての報連相が足りない。



「そうなんだ」



嬉しくて思わず顔がにやけた。



「ちょっとこっち来て」



紀樹が立ち上がって私の手を引く。



コンピューターがずらりと並ぶ


ラックの奧に移動する。



「こっちに何かあるの?」



返事の代わりのキス。



強く抱きしめられて息が苦しい。



「ちょっ、監視カメラ……」



「死角は把握してるやん」



そうでした。



「でも、駄目だよ」



「して欲しそうな顔したやん」



「そんなこと……」




紀樹がラックに手をついて


私の顎を持ち上げた。




「して欲しいやろ?」




茶色い瞳に見つめられると


胸がドキリとして


頷くしかできなくなる。




今度は長めのキスをした。







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