138.Sな彼女とNな彼

人生順風満帆。




そんな一年を過ごした。




紀樹は鳥取での仕事が終わった後


ブルートゥイル大阪支社に拠点を移して


関西各地や四国に出張に行くようになり


私と半同棲生活を送った。




お互いに仕事が忙しかったから


プレ新婚生活のようにはならなかったけど


好きな人の帰る場所が私の所というのは


たまらなく幸せだった。




月に一度は二人で一緒に帰省して


お互いの家族にも紹介し合って


週末を紀樹の実家で過ごすこともあった。




私の両親は私が野本くんと別れていたことに


最初はショックを受けていたけれど


何度か紀樹に会ううちに


良い人とご縁ができたねと喜んでくれた。




結婚を逃げ道にするつもりはないけど


二人で過ごせば過ごすほど


もっと一緒にいたいと思ったし


紀樹が意外にも子供好きで


新しい家族を作る未来が浮かぶ。




自分のキャラクターを生み出す夢より


我が子を生み出す夢の方が


少しずつ大きくなってきた。




年末には私も紀樹もそれぞれ本社に戻り


お正月休みはヨーロッパで過ごした。



結婚式はお城で挙げたいと言ったら


下見に連れて行ってくれた。



その帰り


教会で式を挙げているカップルを見掛けて


やっぱり教会も捨てがたいと言ったら


「どっちやねん(笑)」と笑って


「両方でもええよ」と言ってくれた。




休み明け。



私は戻った企画部でチーフに昇格し


園子が大賞を取ったキャラクターの


デビューイベントを任された。



一生懸命イベントを取り仕切っていると


園子も協力してくれるようになった。



嬉しい誤算があって


私が優秀賞を取ったキャラクターが


あおすけとコラボすることになり


思わぬ形で商品化されて店頭に並んだ。




次は絶対に大賞を取ってみせる、と


二度目の社内コンペの準備を


今度は紀樹の隣で進める。




幸せだった。




幸せすぎたのかもしれない。




一生分の幸せの量が決まっているなら



私はもう使い果たしてしまったのかな。







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