132.Sな彼女とNな彼

「はよして欲しいんやけど?」




「無理です。何考えてるんですか」




告白のおかわりなんて聞いたことない。



冷静になった分だけ恥ずかしさが倍増する。



もう心臓は潰れそうに痛い。





だけど



ふざけて言っているのかと思っていたら



真剣な瞳で私を真っ直ぐに見ていた。





「大切なことは目を見て言って欲しいやん」





ああ、そっか。



彼はストレートな言葉でずっと



心の壁を壊し続けてくれていた。





私だけがずっと目を逸らしてた。





頑なな気持ちが溶かされて



涙になって流れてく。





彼は伝う涙を拭って



抱きしめる代わりに



ぎゅっと手を握った。





胸が痛い。顔が熱い。



気持ちが溢れる。





茶色い瞳を見つめ返す。





「西川さん」





「うん」





「好きです」





「うん」と照れて笑った彼が



「俺も」と手の甲に一つキスをした。





「好きやで、マミヤちゃん」





黙って頷いて応えた。




ずっと変わらず好きでいて欲しい。





「西川さん、私と」「俺と」





「付き……」「結婚しよう」





「合っ……て、えっ?!」





「俺と結婚しよう」





「けっ……?」




こん?って言われた気がする。





「一生大切にするから、ずっと俺のそばにいてくれへん?」





彼の肩越しにヨットハーバーの夜景と



空に浮かぶ三日月が見える。



今日の夜空も綺麗。





「ダイヤモンドはサイズ測ってからのがええかなと思ったから、これは誕生日プレゼント」





左手の薬指にシルバーリングがはめられた。



真ん中に小さなエメラルドが光っている。





「ま、待って」





「お、サイズピッタリやん。やっぱり運命やな」





「ちょっと待ってください」





「どうしたん?」





「私まだ返事してませんよ」





左手の薬指を撫でる。



しっかり指輪の存在を感じる。




「俺のこと好きって言ったやん」




「言いましたね」




「ほら」




ほら?



好きって言って好きって言われたら



結婚しましょう、わあい!って




「幼稚園児じゃあるまいし、順序ってものがあります」




「どうせ結婚するなら早い方がええやろ」




「軽く言わないでください。私の何を知ってるって言うんですか?」




「相手を全部知るなんて無理やん。俺の目の前にいるマミヤちゃんはしっかりしてるようで抜けてるし、気が長いわりにすぐ拗ねるし……」




「や、やめてください」




恥ずかしい。




「その全部が可愛いねん」




「可愛くないです」




「要領良さそうに見えて不器用なところも」




「ちょ、もうストップ」




「愛しいと思うねん。人間のそういう核の部分ってよっぽどじゃないと変わらんやろ」




自信満々に言われると



反論する術が見つからない。




「そうですけど……」




「枝葉がどうなっても愛し抜くから、俺と一緒になって欲しい」






ここで心のままにイエスと言っていれば



運命の歯車は狂わなかったのか



そんなの神様にもわからない。





その日の波も静かだった。











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