131.Sな彼女とNな彼

「マミヤちゃん仕事しんどい?」



「しんどくない……です」



「話してくれなわからへんやろ?」



彼が私の隣に座って


缶のカクテルを一口飲んだ。



「……それアルコール入ってますよ」



「んっ、抜けるまで一緒にいてくれる?」



「いいですよ」



「朝まで?」




この息苦しい世界から


私を連れ出してくれるなら。




「……いいですよ」




「ほな行こかーっていうテンションちゃうやん。どうしたん?」




黙っている私の頭を撫でて



そっと抱きしめてくれるから



他に何もいらなくなる。




「こうしてると満たされるんです」




彼の背中に回した両手に力を込める。




「うん」




風の音も波の音も静かで



伝わってくる鼓動だけが



激しく脈を打っている。




「西川さん」




「うん?」




「ドキドキしてますね」




「言わんといて(笑)」




照れる横顔が目に浮かぶ。



たまらなく愛しくて



泣きそうになる。




「このまま猫になりたい」




心の声は口から漏れていて。




「俺は大歓迎やけど」




撫でられて恥ずかしさが込み上げる。




「すみません。心の声が出てました……」




「うん(笑)」




黙って髪を触られているだけで


どうしようもない幸せを感じてしまう。




神様。お月様。何でもいいや。



この幸せを離したくない。




「西川さん」




「うん」




高鳴りっぱなしの鼓動だけが



私の耳に響いている。





「好きです」





きっと初めて会ったあの日から。




「うん」




私には本物の王子様だった。




結ばれる運命だと言うのなら



赤い糸を信じたい。




心が震える。



堪えきれずに



涙が溢れてくる。





私はお姫様にはなれないと思うけど



そばにいさせて欲しい。





「私と……」





付き合ってください、の台詞を待たずに




「あ、ちょっと待って!」




と、止められた。





「西川さん、大切な場面です……」




違う意味で涙が止まらない。




「それはわかってるんやけど、ちょっと待って」




一世一代の勇気を振り絞った告白。



心臓はバクバクと鳴りやまない。




「何を待つんですか……」




彼は私の腕をそっとほどくと


きちんと座り直した。




「マミヤちゃん、こっち向いて」




「えっ」




「顔見せて」




「嫌です……」




涙でグチャグチャになってるはず。




「ええから」




頬に添えられた手に従うと



茶色い瞳と目が合った。



吸い込まれそうになる。




「見ないでください……」




「言うほどはひどくないで?(笑)」




彼が言いながらハンカチで涙を拭う。




「何なんですか……」




顔と髪をささっと整えられると



改めて目が合った。




「うん、綺麗になったな」




「何がしたいんですか……」




「もういっぺん言って?」




「何がしたいんですか?」




「そこちゃう(笑)」と言って


私のおでこを指先でペチッと弾いた。




「心の声の後からやな」




「それって……」





好きですってもう一回言えってこと?!






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