125.Sな彼女とNな彼

「どうして……?今日、仕事ですよね?」




「今日はマミヤちゃんに会いに行くって朝から何回もメッセージ入れてたやろ」




「あ、スマホ見てなくて……。すみません」




「ほな、お詫びは体で……」




とりあえずここにいるのはマズイ。



彼の腕をつかんで路地の奥へと進む。




「西川さん、社内の誰かと会ってませんよね?」




「何人か出てくるのは見たけ……」




「見られてはないですよね?」




「多分。何で?」




振り返った時に靴ずれした部分が擦れて


「つっ…!」とよろけた拍子に


思い切り壁ドンしてしまった。




「私、西川さんとは会ってないって嘘つきました」




「そ、そうなんや」




「この嘘は守ります」




「話を合わせろってことやな?」




「そうです」




彼はゆっくりと私の腕を外して


体勢を整えた後


ぽんぽんと頭を撫でた。




「ここ最近ずっと元気ないよな。その嘘と何か関係あんの?」




「それは関係ないです」




「ほな、他に何があったん?」




優しい声に泣きそうになる。




彼は何も言わない私の手を引いて歩き出した。




「見られたらマズイんやろ?とりあえず場所変えるから車に……って足どうしたん?」




雑に貼った絆創膏は患部からずれていて


さっきから歩く度に激痛が走っていた。




「靴ずれしてるだけです」




「うわ、血出てるやん。ちょっと俺の肩に手回して……」




ひょいっ。




体が浮いて咄嗟に彼にしがみついた。




お姫さま抱っこ、というやつ。




「えっ、ちょ、やめてください!」




「暴れたら落ちるで?しっかりつかまってて」




落とされたくはない。



両手を首に手を回したままで訴えた。




「怖い。恥ずかしい。おろして……」




「大丈夫大丈夫。誰もおらんから恥ずかしくないやろ」




「重いですよね……」




「マミヤちゃん軽いけどな」




「誰と比べてるんですか」




「言わしといて怒るんやから(笑)。重い物を抱え上げるには力より重心の取り方が大事……」




「そんなウンチク今いらないです」




「ほな黙ってつかまってて」






伝わり合う体温は温かくて


心臓はドキドキ鳴りっぱなしで


胸が熱くて痛い。




落ちないように必死な姿は


きっと物語のお姫様のように


美しくはないと思う。




それでも私は今どのお姫様よりも


幸せなんじゃないかな。




視界の端に満月が映る。





お月様、どうか私に力を貸して。





「西川さん、あの、私……」






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