124.Sな彼女とNな彼

「チヤホヤされた覚えはないよ」



努めて冷静に答えた。



「朔くんや課長も実結にばっかり優しいし!」



園子が私にばかり冷たいせいだと思うが。



「そんなことないよ」



「調子に乗ってるじゃん!」



心外な一言が放たれた。



「私が?いつ??」



「ハロウィンの時だって派手な衣装でステージに立ってたし!」



約半年前のイベントを引き合いに出されても。



「あれは頼まれて仕方なくだよ」



「ずっと王子と一緒にいるし!」



なぜ営業所勤務だった園子が知ってるのか


疑問には感じたけれど



「仕事だよ……」



と答えた。




「嘘ばっかり!」




まだ言うか。




「嘘じゃないよ」




否定した私を恨めしそうに睨む。




「私見たんだから」




「何を?」




「先月王子とデートしてたよね?!」




「えっ」




まさか見られてた?!




「王子と付き合ってるんでしょ!」





一瞬フロアがシーンとした。





そして、ザワついた。


「間宮さんが王子と?」


「王子って今鳥取にいるんだよね?」


「どういうこと?」


あちこちから視線が突き刺さる。




これは、ヤバいやつだ。




「付き合ってないよ」




これは、本当。




「二人で一緒にいたの見たんだから!」




「みっ、見間違いじゃない?」




「動物園に行ったでしょ!」




「行ってないよ……」




これは、嘘。




「実結はこっち側の人間のクセに!」




「こっち側?」




って、どっち側??




「モブなのにずるい!」




「モブ……って何?」




雑魚キャラって意味だっけ?



ドラマや映画のその他大勢。



名前のないエキストラ。




「もういい!帰る!!」




園子がカバンを持って出て行くと


ようやく社内に平和が戻った。




周りを見渡すと


ヒロイン級の美人たちが


クスクスと笑っていた。




真っ赤なスプリングコートの谷本さんが


近付いてくる。



「間宮さん、王子が担当外れた後も会ってるの?」



「いいえ……」



これも、嘘。



「だよね。モブ同士の争いは今度から外でやってね」



「はい、すみません」



「じゃ、お疲れさま」



周りを圧倒する存在感がある。




谷本さんが月ならば


私はスッポンには違いないけど


友達と思っていた子に言われると


心もプライドもズタズタになった。




『実結は園子と同じモブ』




そんな風に思ってたの?




私は自分も園子もモブだなんて


考えたこともない。




悪い夢を見てるみたいだ。




朔くんと一緒にあちこちに謝った時


何度か西川さんとのことを聞かれたが


嘘を重ねていった。



会議室の片付けに行こうとすると


朔くんが自分がやるから帰ってと言うので


甘えることにした。




ズキズキと痛む足は現実で


ストッキングの上から貼った絆創膏の周りには


まだ血が滲んでいた。




会社を出て駅へ向かう。




下を向くと涙がこぼれそうで


空を見上げた。




「満月か……」




不意に細い路地から人が飛び出して来た。




避けきれずに軽くぶつかる。



「すっ、すみません」



「ちゃんと前見て歩かんかい」



慌てて頭を下げて謝った。



「本当にごめんなさい」



「お詫びは体で払ってもらおかー」



「えっ?」



聞き慣れた声に顔を上げた。



「なあ、マミヤちゃん」





「西川さん……!」





モブの前に王子様が現れた。








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