123.Sな彼女とNな彼

昨年作った台本通りの言葉を


園子は緊張した様子で読み上げた。



漢字の読み間違いが二ヶ所あったけど


他の人は気付いてないようだった。




私は一番後ろの席に座って聞きながら


何度も壁時計に目をやった。




時間が足りないと言っているのに


課長が今日も長話をしている。




休憩時間をカットしても


ギリギリになりそうだなあ。




のんびり見ていられたのは


ここまでだった。




次の講師の話も長い。


五分短くして欲しいとの話は


ちゃんと伝わってるのかと


不安さえ覚える。




たまらず


『時間足りなくなる。休憩カットで』


とメモを園子に渡しに行った。




残りの講師の方々にも


時間が押していると小声で伝えて


早く切り上げるようお願いした。




講師の人たちはかなり短縮してくれて


これでもう大丈夫と安心して


司会の園子に目配せをした。




が。




「倉西先生ありがとうございました~。では、十五分の休憩に入ります」




えっ?




耳を疑った。




休憩している時間など残ってない。




「待って待って。休憩なしで!着席してください」




後ろから叫んだものの


数人は既に部屋を出てしまった。




「私が呼び戻してくるから続けて!」




言い残して慌てて追い掛ける。




トイレに直行したけれど、いない。




「新入社員の子たち見掛けませんでしたか?!」




各フロアで会う人会う人に聞いても


誰も知らないと言う。




一階の自販機の置いてある休憩所で


全員を見つけた時には


新しいパンプスで靴ずれしていた。





どうにか時間通りに終えられたけれど


園子と私は社長からお叱りを受けた。




最悪。




後片付けをする前に


絆創膏をもらいに総務部へと向かう。




「舞、靴ずれしたから絆創膏ちょうだい」



「うわ、血が滲んでるじゃん。痛そう」



救急箱を持ってきた舞が顔をしかめた。



「さっき走り回ったからね」



「あー、時間押して社長に怒られたんだって?」



「もう聞いたの?情報早い……」



そこへ園子が追い掛けてきて


皆に聞かせるように言い放った。



「実結のせいで社長に怒られたじゃん!」



はい?



「私のせいではないよね?」



「わざと間違った台本渡したでしょ!」



単なる昨年の資料であって


そこから変更があるのは


何度も伝えている。



「だから……」と私が言い返そうとした時。



朔くんが口を挟んできた。



「秋山さんいい加減にしてください!実結さん何も悪くないじゃないですか!!」



「何よ?私が悪いって言うわけ?!」



園子が応戦して泥沼化した。




見兼ねた課長がやって来て



「まあまあ、二人とも落ち着きなさい」



となだめてくれた。




までは良かった。




「間宮さんは時間変更も調整もきちんとしていたよ。秋山さんのミスだよね」




さらりと園子に一撃を与えた。




「やっぱり司会は間宮さんの方が良かった」




駄目押しの一言がトリガーとなる。





園子がすごい形相に変わり





「何で実結ばっかりチヤホヤされんのよ!」





本社、総務部の中心で愚痴を叫んだ。







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