120.Sな彼女とNな彼

翌日。




備品室で園子と二人きり。




もう本人に聞くしかない。




「あのさ、私、園子の気にさわることしたかな?」



「別に。あ、クリアファイルも持って行こっと」



園子は備品管理ノートに名前を書いた。



「何で昨日ランチ一緒に行ってくれなかったの?」



「舞に二人で行きたいって言われたからね」



「あ、そうなんだ……」




何だか上手く聞けずに消化不良に終わった。





ギスギスした空気での引き継ぎは地獄だし


ギスギスした空気での焼き肉はもっと地獄で


私以外には媚びるような園子の言動に


毎日胃がキリキリと痛む。





そんな中で私の大阪支店への辞令が


社内ネットに掲載された。




「聞いてないよー」と声を掛けられたり


前の営業所の仲間から電話が掛かってきたり


他の人からは嫌われていないことに


何だかとても救われた。




ふう。



あと一ヶ月すれば離れられる。


もう少しだけ我慢しよう。





新人研修の仕事は引き継ぎ不要と言われて


二日間は園子から解放される。




はずだった。




一日目の朝。



去年と同じ白いワンピースのスーツを着て


午後からの研修の準備をしていた。



会議室で課長と二人で話していると


園子がやって来た。



「課長。私も新人研修の司会やりたいです」



「構わないけど、秋山さんは司会経験ないよね?」



「大丈夫です」



「うーん、じゃあ、今日は間宮さんのアシスタントして、明日司会するといいよ」



「間宮さんいなくても出来ます」



「まあまあ、間宮さん上手だから手本にしてよ」




最後の課長の一言は無駄に園子を刺激した。




トゲトゲした空気の新人研修は地獄だし


トゲトゲした空気の質問タイムはもっと地獄で


私以外には愛想のいい園子の言動に


終始胸がムカムカする。




あー、もう早く帰りたい。




定時に研修は終わり


園子は新入社員の子たちと一緒に


会議室を出て行った。




後片付けがあるんですけど?!と


文句を言いたいところだけど


園子と一緒にいるよりマシと思って


一人で黙々と掃除をしていた。




机やイスの配置を元に戻していると


朔くんがやって来て手伝ってくれた。




「ありがとう。助かったー」



「何で秋山さんは手伝わないんすか?あの人もう帰りましたよ」



「いいのいいの。まだ本社に来たばかりだし、ね」



「実結さんは優しいっすね」



「違うよ。揉めるのが面倒なだけだよ」




朔くんは不満そうな顔をしていたけれど


一方的に敵意をむき出しにされても


どう対応していいのかわからない。




心身ともにすっかり疲弊して会社を出た。




いつの間に雨が降っていたのか


地面が濡れている。




新しくしたばかりのスマホが


バッグの中で震える。




一呼吸置いて耳に当てる。




「はい」




「マミヤちゃん仕事終わった?」




「西川さんも今帰りですか?」




「うん。でも、今からコインランドリー行かな明日着るもんない……」





この声が落ち着く。




何気ない話を聞いていると


ギスギスもトゲトゲも


抜けていく。




きっと明日も頑張れる。







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