121.Sな彼女とNな彼
ふいに彼が呟いた。
「満月やなあ」
「満月は明日です」
「去年も同じこと言われたな(笑)」
あれからもうすぐ一年。
同じ場所で一緒に見上げた月を
遠く離れた場所で一緒に見上げている。
「俺一年貞操守ったで?」
「何の話ですか?」
「貞操守ったら俺ら付き合う約束やったやろ」
そんな約束はしていないけれども。
「まだ一年経ってませんよ」
「言ってる間に過ぎるやろ」
過ぎてから言ってください、と
言おうとして言葉が喉につっかえた。
もしも大賞を取れたら
素直な気持ちを伝えようと
クリスマスの夜に決めたのに。
大賞を園子に取られたことも
なぜか園子に虐げられていることも
悔しい。苦しい。悲しい。
吐き出しそうな弱音を
つっかえた言葉と一緒に飲み込んだ。
消化不良で気持ち悪い。
「マミヤちゃん……、何かあったん?」
「何もありませんよ。何でそんなこと聞くんですか?」
「前に話した時より元気と言葉のキレがない……」
「大丈夫です。あ、もう駅に着くから切ります。明日もお仕事ですよね。頑張ってください。では、おやすみなさい」
「ちょっ……」と言う彼の言葉と同時に
スマホの電源も切った。
もう少し優しい声を聞いていたら
泣いてしまいそうだった。
寂しい。会いたい。
早く会いたい。
家に帰ってベッドにいる巨大あおすけを
ぎゅううっと抱きしめた。
微かに西川さんの匂いがする。
「私も充電して欲しい」
本人には言ったことない台詞を
あおすけはもう聞き飽きてるかもしれない。
次に会えるのはゴールデンウィークか。
その時に大阪転勤のことは話すつもりで
距離が近くなれば
もう少し会えるのかな。
『大阪 鳥取 所要時間』
検索すると
日帰りでも余裕で往復できると知って
思わず顔がにやけてしまう。
チェストの上に飾ってある石が
優しく光っている。
ブルームーンストーン。
手に取って窓から月の光にかざすと
うっすらと青く輝く。
お守り代わりにと
明日着るスーツのポケットに
そっと輝きを閉じ込めた。
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