118.Sな彼女とNな彼

『間宮実結殿


五月十六日付をもって大阪支店勤務を命じます』





絶句した。




課長はニコニコとしている。



「あおすけ大阪店の調子が悪くてね~。間宮さんに助けて欲しいってラブコールがあったんだよね」



「ぅえっ?!そんな急に言われても……」



「まあまあ、ずっとじゃないよ。産前休暇中の馬場さんが生んだ後は早く現場復帰したいと言っててね」



確か今月が出産予定日だった気がする。



「彼女が復帰して落ち着く頃には戻してもらうから」



「それっていつですか……」



「早ければ夏には復帰って聞いたけど」



「そんな早くですか?!」



他の人たちは子供が一歳を過ぎてから


職場復帰をしている。



「遅ければ来年になるよねー?」



なるよねー?じゃないでしょ!



叫びたい気持ちを抑えて


「わかりました」と頷いた。





軽く目眩がする。



泊まりの出張だって一人で怖いのに


転勤……。



コンペの結果よりショックを受けていた。





可愛い後輩の朔くんが始業時間ギリギリに


「おはようございまーす!」と


私の隣に座った。




「……おはよ」



「実結さん、暗いっすね?!」



「そりゃ暗くもなるよ」



「あっ、コンペで大賞取れなかったんですね?!」



忘れていた傷口に塩が塗られる。



「それもあるんだけど……」




大阪勤務の話をしようとした時


空になった紙袋を持った園子が戻ってきた。




「あ、あなたが笹下朔くんね?」



会話を遮って朔くんの顔を覗き込む。



「はいっ!」



反射的に朔くんは立ち上がって返事をした。



「ふふっ。私が大賞の秋山園子でーす。今日からよろしくねー」



「よろしくお願いします!」




園子は私の真向かいの席に座った。




勘違いかもしれないけど


微妙に私に挑戦的な物言いのような気がする。



気のせいかもしれないけど


絶妙に私に好戦的な振る舞いのような気がする。






こういう直感は大体当たる。





お昼休みが来て


「園子、一緒にランチに行かない?」と誘うと


「ごめーん。先約があるんだ」と断られた。




園子はお財布を持って総務部へ向かうと


同期の嶋村舞ちゃんと二人で出て行った。




前に三人でランチしたことも


占いに行ったこともあるのに


何で私は誘ってくれないの?!




呆然としている私に朔くんが


「実結さん、ハブられてるんっすか?」と


出来たばかりの傷口に塩を塗った。





神様、私何か悪いことでもしましたか?





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る