117.Sな彼女とNな彼

四月。




いつもの朝。




社内コンペの結果が出た。




“大賞 秋山園子”




“優秀賞 間宮実結”





あと一歩だった。




悔しい。




大賞作品は今年中にはデビューして


商品化される。




自分の生み出したキャラクターが


店頭に並ぶのは夢だった。




悔しい。




負けた相手は同期の園子だから


スタートラインは全く同じ。




力の差で、負けた。




悔しい。






松川課長が私の肩をポンポンと叩いた。



「間宮さん、優秀賞おめでとう!」



何でそんな嬉しそうなの。



「……ありがとうございます」



ニコニコと私を見ている。



「お祝いは焼き肉がいいよな。今週どう?」



「はいはい、行きます」



「新しい人の歓迎会も兼ねてパーっとね!」



「わかりました」




ん?



新しい人って……?




誰ですか?と聞こうとした時




「実結っ!」




後ろからぎゅっと抱きつかれた。




驚いて振り返ると


ふんわりした女の子が


立っている。




「園子……!」




「久しぶりー!私ね、本社企画部に配属になったの!」




園子はマツエクとアイプチで


前よりパッチリした目を


キラキラと輝かせていた。




「おめでと。大賞も、本当におめでとう」




「ありがと。大賞受賞するから本社に是非って呼ばれたんだよねー」




「そうなんだ。すごいね」




「じゃっ、あとでね」




園子は人気スイーツ店のクッキーを持って


他の部署へ挨拶に行った。





課長が手を振って見送る。



「秋山さんは間宮さんの同期なんだよね」



「そうですね」



「じゃあ、仲良いんだ?」



「新人合宿は一緒でしたからね」



前は時々電話していたのに


私が本社に来てからは全然なことに


今更ながら気が付いた。



「じゃあ、引き継ぎも楽勝だね」



「そうですね」




このグループに私が配属された時から


ずっと休職していた室戸さんは


顔を見ることなく辞めていった。


室戸さんのデスクを園子のために片付けて


残された私物を小さい段ボール箱にまとめた。




「新人研修の司会は間宮さんお願いね」



「はい」



「それ以外の業務を秋山さんに教えてあげてね」



「はい」



「一ヶ月あれば引き継ぎ終わるよね」



「はい……、えっ、引き継ぎ?!何の話ですか??」



「あれ?俺言ってなかったっけ??」




何を?!




嫌な予感がする私に向かって



課長は三つ折りの紙を差し出した。




おそるおそる開く。




『辞令』





という言葉が目に飛び込んだ。









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