116.Sな彼女とNな彼

早朝の公園にも日が差すようになった。




ホワイトデーにはバラの花一輪と


シンプルなネックレスを貰った。




綺麗なエメラルドグリーンの箱を開ける。




「これ高かったんじゃないですか」



「ホワイトデーは倍返しやろ」



「三倍返しです。でも、それ以上ですよね」



「ええから。ちょっと貸して」




彼は私の長い髪をサイドに寄せて


チェーンをそっと首の後ろに回した。




鎖骨の真ん中で丸いアクアマリンが光る。




「ありがとうございます」



「大人っぽく見えるやん。色気がたまらんなー」



「そんな目で見ないでください」



視線を遮るように両手で首元を隠した。



「褒めてるだけやん(笑)」




セクハラ発言に聞こえると言おうとして


ふと気になった。




「何でアクアマリンなんですか?」



「俺の誕生石やから」



「あ、西川さんって三月生まれなんですね」



「早生まれやねん」




それはそれは、おめでとうございます!と


プレゼントとお土産を受け取った私が


のほほんと言ってる場合ではない。




「何でもっと早く言ってくれないんですか」



「もう誕生日だぜ!うぇーい!って年でもない……」



「そんなことないでしょ。あー、どうしよう。西川さん、何か欲しい物ないですか?」



「俺が欲しいのはマミヤちゃんだけやけど?」




冗談ではなく本気なんだってことは


目を見なくても知っている。




「あかん。私は私のです」と言うと


「今日はこれで我慢しとく」と


不意に唇が奪われた。




「なっ……?!」




「隙あり(笑)」




「勝手に、やめてください」




久しぶりのキスに顔が赤くなる。




「許可取ればええんや」




「えっ?」




「マミヤちゃん、キスしていい?」




「えっと……」




答えない私を彼はニヤニヤと見つめる。




「黙ってたらわからんやろ?」




至近距離まで近付く顔に目を閉じた。




「それはオッケーってことやんな?」




顔が熱い。胸が熱い。体が熱い。




弱く頷く。




唇が優しく触れる。




繰り返されるキスが



ちゅっと音を立てた時



大人のキスへと変わった。




熱が私を溶かしていく。




頭の中が真っ白になる。






「ワン!」




垣根の向こうで犬が鳴き声がして



彼が慌てて顔を離して立ち上がった。




「危な。ごめん。完全にスイッチ入ってた(笑)」




私は魂を抜かれました。




「マミヤちゃん?」




「大丈夫です。立てないから時間ください」




腰も抜けました。




彼はふっと笑って私の髪を撫でた。




「移動して続きしよっか?」




「しません」




これ以上は呼吸困難になります。






彼がミルクティーを買ってきて



再び腰を下ろした。




「今日はどこ行こっか?」




「動物園がいいです」




「お子様やな(笑)」






大人の壁を越えてしまったら



きっと心も体もブレーキが効かない。



勢いに流されたくない。





緩い温もりと曖昧な関係は



一緒にいられる幸せだけを



漂っていられる気がした。











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