115.Sな彼女とNな彼

西川さんを送り出してから


三ヶ月が過ぎた。






連絡は前よりも多かったけど


会える時間は限られていた。


月に一度、こっちに戻って来たって


その時間すべてを独占することは


私には出来ない。






それでも、帰って来た時には


嬉しそうに鳥取土産を抱えて


真っ先に私のところに来た。




夜に向こうを出て朝に着く。




まだ暗い小さな公園には誰もいない。




「砂丘って広いんですか?」



「何が悲しくて男一人で砂丘行かなあかんねん(笑)」



「すっごく綺麗なんですよ」



「写真で見ただけやろ(笑)。今から一緒に行く?」



「行きません」




私から会いに行けば


もっと長い時間を独占できるけど


私から会いに行くと


きっと休みの度に通ってしまう。




行かないと決めておいた方が


仕事に集中できる。






バレンタインデーには奮発して


高級チョコをあげた。




箱も中身も高級感で溢れている。




「ありがとう。めちゃくちゃ美味しいやん」



食べてみ?と差し出されたチョコを


一粒口に入れた。



「んー、おいしー……!」



上品な甘さが舌に広がる。



「あとは持って帰って一日一個味わって食べるからな」



「えー、もう一個食べたい」



彼は「あかん(笑)。俺の」とニヤリとして


蓋を閉めた箱を紙袋にそっと戻した。




「次は手作りチョコがええなあ」



「嫌です。料理は苦手なんです」



「ほな、手編みのマフラーでもええよ」



「私のマフラーあげましたよね」




マミヤちゃんの匂いが微かに残ってるから


もったいなくて巻いてへんねん、と


恥ずかしそうに笑っていた。




「バカ」



「バカにさせてるんはマミヤちゃんやろ」



「どういう意味ですか?」



「ええから。充電していい?」




頷くと同時にぎゅっと抱きしめられて



心臓がドキッと音を立てた。



回された手が背中や腰を撫でる。




「ちょっ、それは過充電です」




「バレたか(笑)」






日が昇って落ちるまで



誰にも遠慮せずに過ごせる時間は



たまらなく幸せだった。








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