112.Sな彼女とNな彼

彼の手がミルクティーを持つ私の両手を


上から包み込む。




「もしかして昼前から待ってたん?」




時計は午後二時を指している。




答えない私の頬をふにと摘まんだ。




「何でおるんやったら連絡せーへんねん。すぐ降りて来たのに」




「だから、偶然前を通っただけです」




「嘘つけ。こっちは家と反対方向やろ」




摘まんだ手を開いて頬を撫でる。




「顔もめっちゃ冷たいやん」




「すみません。忙しいだろうなって思ったら連絡しづらくて」




「あほやなあ。そんなんどうにかするやん」




「玄関で待ってたら出てくるかなって」




「ほんまにあほやな(笑)。正面玄関は反対側やねんけど」




「そうなんですか?!」




どうりで人の出入りがないと思った。




「マミヤちゃんは一人で何でも考えすぎ。俺とマミヤちゃんの仲やねんから、もうちょい頼って」




「どんな仲ですか……」




恋人でも友達でもない。




私たちの関係には


名前がなくなってしまった。




「それはもう、抱き合ったりキスした……」




「わああ、やめてください。言わなくていいです」




「うん。だから、俺とマミヤちゃんの仲やろ?」




ふざけて言ってると思ったのに


彼は優しい目で笑っていた。




「いつ帰って来るんですか?」




「一年くらいかな。月一くらいはこっちに帰れたらええなあ」




遠距離恋愛は慣れているけど


元カレ野本くんは離れている間に


違う彼女ができていたという苦い経験がある。




物理的な距離が生む心の距離の埋め方を 


私は知らない。








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