111.Sな彼女とNな彼

『bluetwil ブルートゥイル』




小さな看板に目を走らせ


彼が働いている会社の前で


二階の窓を見上げた。




勢いで来てしまったものの


いきなり入っていくわけにはいかない。




偶然現れないかと期待しながら


建物の端から端まで行ったり来たりしていると


駐車場が目に止まった。




同じ車が三台並んでいる。




社用車ってどれが誰のか決まってるのかな。




車の前で張ってた方が入れ違いにならずに済むかな。




敷地の外から目を凝らす。




一台の車のドリンクホルダーに


あおすけが収まっている。




「あれだ!」




絶対、多分、間違いない。




良かった。まだ会社にいるんだ。




『下で待ってます』とメッセージを送れば


彼はすぐ来てくれる気がする。




だけど


社内でトラブルがあったということは


忙しくしているに違いない。




何より


一目会いたくて来ました、なんて


振ったばかりの私が言える立場にない。




やはり


偶然を装って会うより他に


上手い言い訳が思い浮かばない。




待つしかない。




寒い。




じっとしていると凍えそう。




何度も何度も建物の前を往復していると


ちらちらと雪が降り始めた。




今シーズン初めての雪だ!




大粒の雪の結晶が舞う。




手のひらで受けると消えていく。




「積もるかな?」




水になった雪を握りしめて


反対の手で覆う。




もう指先の感覚がない。




もしかして気付かない間に出発した?




不安に襲われ始めた。




その時。




「マミヤちゃん?」




背後から声を掛けられて


心臓が飛び出た。




「にっ、西川さん!」




「何やってるん?」




「ぐ、偶然通りかかっただけですけど」




彼がふっと笑った。




「かさ地蔵みたいに頭に雪積もらせて何が偶然やねん(笑)」




「えっ?!」




慌てて頭の雪を振り払う。




「寒かったやろ?とりあえず車に入って」




彼は私の手を取ると「冷たっ!」と言って


駐車場の中へと引き入れた。




既にエンジンのかかっている車の助手席に


私を座らせると「ちょっと待っててや」と


あたたかいミルクティーを買って戻ってきた。






温もりが蘇る。









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