110.Sな彼女とNな彼

月曜日。




騒然とする社内をすり抜け


自分の席に座った。




パソコンの電源を入れて


メールチェックをする。




『件名:担当者変更のお知らせ』




映し出された文字の羅列を


ぼんやりと眺めていた。




実感は何一つない。




しばらくして西川さんの個人の携帯から


『ごめん。今日そっち行かれへん。落ち着いたら会いに行く』


とメッセージが来た。




そして、打合せの時間には


後任の大江さんとイヴに会った山田さんが


二人で現れた。




山田さんは「初めまして」と挨拶をしたから


展望台で私に会ったことには


おそらく気付いてない。




「初めまして。間宮です」




自己紹介を済ませて


もう殆ど完了しているシステムの入れ替えと


今後の保守内容の確認をした。




今日は山田さんが残って作業をすると言うので


サーバー管理室へと案内する。




コンピューターだらけの無機質な空間。




真ん中にあるデスクに座るように促す。





「山田さん、ちょっと聞いてもいいですか?」




「はい?」




「西川さんはどこに行くことになったんですか?」




「幾つか現場あるんですけど、最初は鳥取ですね」




鳥取……砂丘。ラクダ?


行ったことない。


わかるのはとても遠いということだけ。




「もう鳥取に?」




「本当は今朝出発予定だったんですけどね。社内でトラブルあったんで、夕方出発やな~って言ってましたね」




「夕方?まだこっちにいるんだ」




「到着は夜中ですよね~。運転大変そ……」




気が付くと部屋から飛び出して


慌てて階段を駆け降りていた。




その勢いに課長と朔くんが目を丸くしている。




「課長、腹痛が痛いので早退します」




「えっ、あ、わかった」




荷物を急いでまとめる。




「朔くん、カマダさんの作業が終わったらサーバー室のカギ締めてね」




「えっ、あ、わかりました」




気が付くと会社から飛び出して


慌てて電車に乗り込んでいた。




課長が「間宮さん、腹痛が痛いって言ってたな(笑)」


と、笑っていたことも


朔くんが「山田さんをカマダさんって言ってましたね(笑)」


と、笑っていたことも



気が付かないスピードで。









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