106.Sな彼女とNな彼

このまま堕ちてしまえばいい。



きっとこの夜景より



美しい景色を見せてくれる。




このまま溶けてしまえばいい。



きっとこの火照りより



心地いい温もりで包んでくれる。




このまま甘えてしまえばいい。



憂いや不安なんて吹き飛ぶくらいの



優しい幸せが待っている。






「西川さん」




「うん」




「ごめんなさい」




彼はゆっくりと腕の力を緩めて


私の顔を見た。




「え?ごめんなさいって聞こえたんやけど」




「ごめんなさいって言いましたよ」




「マジで?」




「マジですけど」




「本気と書いてマジで?」




「本気と書いてマジですね」




彼はふんふんと頷いて息を吸い



「なんっでやねん?!」と



渾身のナンデヤネンを放った。




「私の気持ちの問題です」




「まだ俺に惚れてへんから?」




もう惚れてます、なんて言えない。




「今付き合ったら私は西川さんに甘えてしまいます。社内コンペの準備もあって仕事に集中したいんです」




「付き合ってても仕事には集中できるやろ?」




「私には恋愛と仕事の両立は難しいです」




仕事が上手くいかなかった時に


恋愛が逃げ場になってしまう。




少しの沈黙の後


彼は私の髪を優しく撫でた。








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