100.Sな彼女とNな彼

ステージに立って歌うなんて



一生に一度。



これが最初で最後。




沸き上がる高揚感と



押し寄せるエクスタシー。



目が眩む。




階段を降りても



興奮冷めやらぬ体は



熱を帯びる。






「マミヤちゃん、大丈夫?」




心配そうに私の顔を覗き込む



金色に輝く瞳。



絵本の世界から抜け出した




「王子様……」




キラキラと星が煌めく。




優しい笑顔に……




「何言ってんねん(笑)」




ピンッと指でおでこを弾かれた。




「いたっ!」




現実に引き戻される。




「マミヤちゃん具合悪いから連れて帰るわ。朔、後は頼んだで」




王子様はギターを外して朔くんに渡すと


私の手を掴んで早足で裏道へと向かう。




「ちょ、ちょっと待ってください」




「あ、ごめん」




歩く速度を緩める。




振り返る姿がかっこ良すぎて



尊い。直視できない。



余計に熱が上がる。




「片付け手伝わないと」




「あほか。そんな格好でチョロチョロすんな」




マントを脱ぎ捨てたミニスカナース。




「でも」




「どうしてもやったら着替えてから出直せ」




手を引いて歩く彼の横顔を盗み見る。



やばい。かっこいい。




「あの、誰かに見られたら困るから手離して」




チラッと振り返られると


心臓がドキリと跳ねた。




「イヤや」




「えっ、困ります」




不敵な笑み。




「なら、走るで」




「へっ?!」





王子様にさらわれて



暗い道を駆ける。



これは夢か現実か。





闇を抜けると光の世界。





眩しい。





会社のエントランス。





現実だったわ。





ポケットからカードを出して



セキュリティを解除して鍵を開ける。





「近道やったやろ?」




「あんな路地通ったことないですよ」




「誰にも会わへんから丁度ええやん」




「そうですけど」




明るい照明の下で見ると



王子様のキラキラは半端なくて



何だかモジモジしてしまう。




エレベーターに乗る。




「まさかマミヤちゃんとライブするとは思わんかったなー」




「私もです。っていうか、西川さんが歌うなら私はいらなかったですよね?!」




「いや、まあ、ギターは練習してへんし、弾きながら歌うんはしんどいからボーカルは違う人にってお願いしてたんやで?」




「あ、そうなんですか」




彼はふっと笑った。




「誰もマミヤちゃんをボーカルに立てるなんて思わんやろ(笑)」




自他ともに認める音痴は否定できない。




「失礼ですね」




「あはは。思ってたよりは全然上手かったけどな」




「昔カラオケでよく歌ってた曲で助かりましたよ」




「ほんま、ええ声でそそられる」




彼が腰に手を回して来た。




ゾクッと快感が襲う。




「駄目」と言うより早く



エレベーターのドアが開いた。




逃げるようにして



更衣室の鍵を取りに行くと



外線の電話が鳴った。




電話機のモニター画面を見ると



『あおすけ大阪店』と表示されている。




「はい、企画部間宮です」



店舗スタッフから集計処理のやり方を


教えて欲しいという電話。



「パソコン立ち上げるから待ってね」



保留ボタンを押す。




「西川さん、これ男子更衣室の鍵です」




鍵を渡して自分のデスクに向かうと



彼がついて来る。




「更衣室の場所わかりますよね?」



「わかるわ(笑)。システムの問題なら俺が聞いた方がええやろ?」



「あ、そうですね」




パソコンの電源を入れて


ナースキャップとウィッグを脱いで


受話器を取った。




どうやらレジの操作がわからないらしい。




マニュアルを開く。




受話器に手を当てて


隣に座っている彼の方を向いた。



「私で大丈夫ですよ。西川さんは着替えてきてくださいね」



そのままでいて欲しい気持ちもある。



彼が首を振って体ごと私の方を向いて


片肘をついた。



「ナースがオフィスに座ってるって果てしなくエロイな」



「真面目な顔で何言ってるんですか(笑)。早く行ってください」



気が散る。



「座るとスカート丈もギリギリやしなー」



見せパンを履いてるとはいえ


ガーターベルトは丸見えなわけで


だんだん恥ずかしさが込み上げてくる。



「セクハラですよ!」



スカートの裾を押さえても


顔が赤くなってるのは隠せない。



電話相手を待たせるわけにもいかず


何もないように受け答えする。




じっと見られてる気がして落ち着かない。




恥ずかしい。




もう彼の方を見れない。




頭の奥がじんと痺れる。




逃げたいのに




彼の視線に絡まって




身動きできない。









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