95.Sな彼女とNな彼

定時後。



朔くんはバンド練習。



私は残業。





「手伝うやんか(笑)」



「西川さんだけが悪いんじゃないんで結構です」



回されて来たハロウィン経費をまとめる。



「マミヤちゃんは朔の練習見に行かへんの?」



「行くとコーラスやらされたりタンバリン叩かされたりするんです」



うっかりエリシマムのファンだと言ったために


巻き込まれた。



「マミヤちゃんが?音感ないのに?」



「鼻唄一つで私の音感語らないでください」



あはは、と彼は笑って立ち上がった。



「俺ちょっと練習見てくる」



「えっ?手伝ってくれるんじゃないんですか?」



「今日はこの後会社に帰るねん。マミヤちゃんと一緒に帰りたいからゆっくり残業しといて」



「二人で早く片付けて早く帰りましょうよ」



「早い時間は周りの目があるからちょうどいいやん。あっ、二十日の伝票の集計間違ってたで」



ほな、と行ってしまった。





西川さんも練習に混ざってるのかな。




ちょっと見てみたい。




けど、集計やり直ししないと。






もう一度計算をし直してチェックする頃には


朔くんと西川さんも戻ってきた。



「実結さん、衣装オッケーでしたよ」



「着てるとこ見たかったのに」



「本番のお楽しみでいいじゃないっすか」



「そうする。髪の毛は私がセットしてあげるね」



できるのか?という不安はある。



「西川さんの歌、すごい上手かったですよ」



「歌ってるとこ見たかったな」



「今度みんなでカラオケ行きますか?」



「気が向いたらね」



上手い人の前で音痴を披露するのはどうか?


という疑問がある。



西川さんはニヤニヤしている。



「俺はマミヤちゃんが歌ってるとこ見たいな」



「嫌です。さっき私の音感ないって笑いましたよね」



つんと顔を背けた。


朔くんが苦笑している。


そして、ボソッと呟くように言った。



「実結さんは歌声が可愛いんで大丈夫っすよ」



完全に音痴認定されている。



「フォローになってないから(笑)」



「エリシマムの曲なら社長より実結さんが歌ってる方が僕は好きっす」



「大袈裟だよ(笑)」



悪い気はしないけど、恥ずかしいからやめて欲しい。



「へー。俺とどっちが好き?」



大人げなく張り合うのはやめて欲しい。



「西川さんは別格じゃないっすか(笑)。何でプロ目指さなかったんですか?」



「友達に頼まれてやってただけやしなあ」



才能と興味は別なのかな。



「もったいないっす」



「そうやな……。あ、俺まだ松川課長と打合せがあるから、朔とマミヤちゃんは帰ってええよ」



えっ?私と一緒に帰るって言ってたのに?



「わかりました」と朔くんは先に帰って行った。



仕方なく帰る支度を始める。





「じゃあ、私も帰ります」



「待って待って。俺も帰るけど、ほんまに課長と話あんねん。先に車で待ってて」



「え?車なんですか?」



「いつも車やけど?」



「前に一緒に帰った時は電車でしたよ」



「あれは出張帰りやったし、特別やったからな」




思い出して照れたように笑う彼が



周囲に目を走らせてから



車のキーを私のバッグに忍ばせた。




「これは……?」



「駐車場の一番奥やから、中で待ってて」



「はい」





まるで家の合鍵を渡されたみたいで



胸が高鳴る。



駐車場の奥にある車を見つけると



バッグからキーを取り出した。






あれ?



この車、どうやって開けるの?!









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