96.Sな彼女とNな彼

リモコンキーってボタンで開錠だよね?



押し間違えてないか確認をして


開錠ボタンを押す。




無反応。




カチャッと鳴らずに開いたとか?




ドアを開けようとしても


やはりロックが掛かったまま。




開いてない?




何度かドアハンドルを引っ張って


ガチャガチャしていた。




すると




盗難防止のアラーム音が鳴り出した。




ピーッ、ピーッ、と暗い駐車場に響く。




徐々に音量が上がる。




どうしよう?!




必死にキーのボタンを押しても


一向に開かない。鳴り止まない。






「何やってるん?(笑)」



「西川さん!開きません!」



「ボタン押すだけやねんけど」



「さっきから押してますよ!」



ピーッ、ピーッ、と鳴り続ける中で


キーを渡した。


彼がボタンを押しても無反応で


ハッとした顔をした。



「そういや電池切れてるんやった(笑)」



「ええ?!」



鍵穴に普通にキーを入れると


アラームは止まった。


助手席のドアが開く。



「電池買っといてって頼まれてたん忘れてた(笑)」



「心臓止まるかと思いましたよ」



「ごめんごめん。乗って」




私が乗り込むと同時に


彼の携帯が鳴る。



車の外で通話した後


運転席のドアが開いて


彼が座った。




「ほんまは夕飯一緒にと思ってたんやけど、急ぎで会社に戻らなあかんから家まで送るわ」



「あ、そうなんですか」



「ガッカリ?」



「いえ、別に」



「昼間の続きしたかったのになあ」



「し、しませんよ」




未完成な距離感を壊さずに


いつまで今を続けていられるか


自信はない。




「来週の月曜日はマミヤちゃんは出張やしなあ」



「すみません。朔くんをよろしくお願いしますね」



「あおすけ新店舗か。何がヒットするかわからんもんやな」



「私も早くキャラクター企画やりたいです」



「デザイナーがやってるんじゃないんや?」



「もちろんデザイナーさんもいますけど、年に一回社内コンペがあって自分のキャラが選ばれたらデビューですね」



「そうなんや。楽しみやな」




今日は信号になかなか引っ掛からない。



普段混んでる道すらスムーズに流れる。




「腹減ったなー。マミヤちゃんもお腹空いてるよなあ。ごめんな」



「私は帰れば母がご飯作ってくれてるので大丈夫です」



「ええなあ。うちのオカンは料理嫌いで、夕飯の時間以外は作ってくれへんからなあ」



「だから料理ができる子がいいんですね」




信号が赤に変わる。




「俺そんなこと言ったことないよな?」



「言ってはないですけど、私が料理できないって話をした時に露骨にスルーしましたよ」



「俺が?いつ?」



「西川さんが私にオムライス作ってって言った時です」




長い待ち時間。



彼の視線が痛い。



早く信号変わってよ。




「マミヤちゃんはアホやなあ」



「あ、あほって……」



「そりゃ料理得意っていうのは魅力の一つやとは思うけど、料理できないっていうがマイナスにはならんやん」



「でも、ガッカリしましたよね?」



「してへんよ(笑)。あの日は俺も初デートで緊張してたし、花火の時間があって焦ってたから、マミヤちゃんがそこを気にしてるとは気付かんかったな……」




青に変わる。




なんだ。そういう事だったんだ。



「西川さんって緊張するんですか?」



「たまにはね(笑)。勝手に勘違いして勝手に怒るんやから。罰としてコンビニに付き合ってな」



「うっ。はい」




大通りから少し離れた広いコンビニの駐車場に


車を停めた。




「電池買って来るから待ってて」



「はい」




戻って来た彼が買ってきたのは


電池、コーヒー、ミルクティーと


肉まん。




半分に割って私に差し出した。




飲み物をドリンクホルダーに並べて


半分の肉まんを食べる。




「美味しいですね」



「やろ?俺は料理は上手い下手より、美味しく食べられるかが大事やと思うねん」



「もうその話はいいですよ」



緊張してたことも


花火のために焦ってたことも


もうわかったから。



「肉まん半分でも美味しくて幸せやと思えたら、それに勝るもんはないやろ」



「私は肉まんよりピザまんが好きですけどね」



「またそういうこと言うんやから。やっぱりお仕置きやな」




彼は肉まんを置いて



助手席の私に覆い被さった。




「あっ、ちょっ、ストップ!」



「肉まんよりマミヤちゃんの方が美味しいからな」



「私の肉まんが落ちちゃう!」



「しっかり持っとくんやで」




首すじの柔らかい感触に体が痺れる。




「やっ……」




軽く噛まれて吸われると


目の前がチカチカして


体がビクリと震えた。




「その反応はあかん(笑)」




彼が体を離してハンドルにもたれ掛かった。




「あ、危なく肉まん落ちるとこでしたよ」



「こっちは危なく理性が落ちるとこやったわ(笑)」



「とっ、とりあえず早く食べて帰りますよ」



「そうやな。俺もう会社に帰りたくないんやけど」




笑いながら半分の肉まんを食べた。




車の窓から半分の月が覗いている。




未完成なカタチが綺麗だと言ったら



西川さんは私から離れてしまうのかな。







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