79.Sな彼女とNな彼

「長い間ありがとうございました。さようなら」




言い終わって



得意の営業スマイルを浮かべたのに



目から涙がこぼれ落ちた。





手の甲で拭う。





真っ青になった野本くんと



引きつった顔のフルヤさんを見て



二人で嘘と罪を乗り越えて欲しいと思った。






最初の浮気相手が彼女で



最後の浮気相手が私であればいいと



心から思った。






それなのに。






「ユキヒロが二股するわけないでしょ。ウソツキ!」





立ち去ろうとした私にフルヤさんが言った。





はい?





ウソツキはあなたの隣にぬぼーっと立ってる



パツパツ男ですけど?





「あなたがそう思いたいならそう思ってていいんじゃないですか」





イラッとした気持ちを抑えて応えた。





「ユキヒロは私の家に住んでるし、携帯も見せてくれます!浮気するはずありません」





会社の寮にいなかったのは


彼女の家にいたからで。



音信不通だったのは


彼女がチェックしてたからか。




謎はすべて解けた。




と、言いたいところだけれど



ますます私と別れずにいた謎が深まる。





「気持ちはわかります。私も今さっきまで彼が浮気するはずないと思ってましたから」





混乱したフルヤさんは野本くんの腕を掴んだ。





「ねえ、ユキヒロも何か言ってよ!」





青い顔のままの野本くんは



「えっ」と体をビクつかせた。




そして、ボソボソと小さい声で



「彼女とは転勤してから一度も会ってないし、僕は別れたと思ってた」



と言った。






はい?




一度も会ってない?




僕は別れたと思ってた?






ブチッと堪忍袋の緒が切れて



思い切り暴言を吐きそうになったのを



ぐっと堪えた。




それでも、口から溢れ出た。




「転勤してから会ってないっていうのは、カッコ帰省中は除くカッコ閉じる、ですか?」



「あなたは別れた相手とさも当然にラブホテルへ行くんですね」



「お誕生日遅くなってごめん、も嘘ですか」




私の勢いに野本くんもフルヤさんも


何も言わなかった。




噴出した怒りが収まると



みっともない言葉を垂れ流したと



激しい後悔が襲う。





しょうもない女だな、私は。





大丈夫。





どうせ二度と会うことはない。





情けない捨て台詞を残すような女とは



別れて良かったと思ってくれたらいい。





「この前もらったデジカメなんだけど、あの晩ホテルに忘れてきちゃった。二人に差し上げるから引き取りに行ってね」





そのカメラで撮った



最初で最後のツーショットは



消してくれていいから。





これから写す二人の未来は



二人だけの思い出にして



笑って生きてって欲しい。









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