78.Sな彼女とNな彼

「あ、えっと……」




口ごもる野本くんの左手には



丸眼鏡の女の人と同じデザインの



シルバーリング。





きょとんとした顔で女の人は私を見ている。





その光景が現実的には感じられなくて



頭の中は冷静さで冴え渡る。





浮気なんて思い浮かびもしなかった。



野本くんが私からの電話に出なくなったのは


去年の夏の終わり頃。



殆ど音信不通にされてた私はとっくの昔に


本命の彼女の座は奪われてたのか。




反対に私を切らずにいた理由は何?





「その人、誰?」





もう一度聞いてみた。





「ユキヒロ、知り合い?」





異様な空気を感じた丸眼鏡も


野本くんを見上げた。






こういう時



いわゆるイイオンナならば



浮気された自分を察して



黙って身を引くの?






野本くんは目を泳がせながら



「この人は、同じ職場の、フルヤナツさん、です」



と答えた。





そんな無意味な紹介は



私はおろかフルヤさんとやらも納得するわけない。





ああ、そうか。



他に彼女ができたんだ、とは



言いたくないんだね。





こういう時



黙って身を引いてあげたならば



浮気していた彼はずっと



彼女を欺き続けるの?





「そう」と返事を絞り出そうとして



自分の足がガクガク震えていることに



気が付いた。





これから先



欺き続けられていれば



浮気された彼女はずっと



嘘の上で笑って生きていくの?





「同じ……職場の、ヒト、か」





悲しみなのか怒りなのかはわからない。


涙がこぼれそうで声が震える。





フルヤさんは不安そうな顔をしている。





ああ、そうか。



その女は誰なのか、とは



言えないんだね。





どこからともなく



しょうもない男やな、と聞こえた気がした。





震えが止まる。





深く息を吸って吐き出す。





大丈夫。





「はじめまして。


私は野本行宏の彼女のマミヤです。


だけど、いつまでもそう思っていたのは


私の方だけみたいなので、


今日で彼女と思うのは終わりにします」











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