69.Sな彼女とNな彼

『ROOM3』のドアに



『IN USE』プレートを貼り付けて



中に入った。





彼はノートパソコンの前で


深いため息をついている。




「やっぱり納期を前倒しするしかないよな~」




私は資料とお茶を二つ並べて


向かい側に座った。




「私は早く終わって欲しいです」




「何で?」




「西川さんが谷本さんとイチャイチャしてるのを見なくて済むからです」




「イチャイチャなんかしてへんやん(笑)。一緒に飯食ってるだけ」




「別にいいですけど」




彼がノートパソコンを閉じて


私の顔を見た。



ぷっと吹き出して笑う。




「めっちゃ怒ってるやん(笑)」




「別に」




半分は仕事を兼ねてるから、と


彼は何度も念押しをして


資料に目を通した。





「マミヤちゃん、土日出勤多くない?」




「夏はイベントが多いですからね」




「せやなくて。朔に振れる仕事もあるやろ?」




個人の予定表を並べる。




「朔くんはバイクが趣味で土日はチームでツーリングに行くんです」




「は?そんなん回数調整させたらええやん。いつまで学生気分やねん」




「生き甲斐だって言われたら止められないですよ」




「マミヤちゃんはお人好しやな」




「よく言われます」




西川さんは私の予定表を見つめたまま


しばらく黙っていた。




「じゃあ、この日やな」




土曜日の午前のみという日に


蛍光ペンで丸をした。




「土曜は会社閉まってますよ」




「それは俺とマミヤちゃんのデートの日。作業日はまた計画表を修正して持ってくるから、松川課長にも打合せ同席して欲しいって伝えといて」




「あ、はい。えっ、デート?」




「おごってくれる約束やろ?それから議事録やけど、もうちょい簡潔にしてええやろ。この部分は箇条書きにしといて」




「わかりました」






流れるように次の約束が決まって


その日は二人で映画を観た。


チケット代は私持ちにしてもらって


借りも返せたと思う。





西川さんと二人で一緒にいる時は


楽しくて嬉しくて幸せで


他のことは何もかも忘れていられた。





忘れて甘い夢を見る。





至福の夜。





『おやすみ』というメッセージに



『おやすみ』とスタンプを返した。




くすぐったい気持ちで布団に潜る。





その後の着信に気付かないほど



深く夢に堕ちていた。










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