67.Sな彼女とNな彼

「おはよう、マミヤちゃん」




「おはようございます」





月曜日の午前中は


ブルートゥイルさんとの打合せがある。




西川さんたちが各部署を順番に回っていく。




上手く昼前ギリギリに終わった部署の中で


一番力の強い女性社員がそのまま


西川さんとランチに行くのが


大体のパターン。




ここの会社は女性社員の意見が強いから


昼休みにシステムの要望を聞き出して


提案すると追加の仕事がもらえるねん、と


彼はよく言っていた。






私の隣の朔くんを斜め前の空席に追いやって


西川さんが隣の席に座った。




「昨日は何時に寝たん?」




「十時です」




「よく寝れたなあ(笑)」




「眠れたのは日付が変わる頃ですけどね」




「それでも早いな」




いつも通り。



だけど、いつも通りじゃない。



距離が近い。




「あの、西川さん。もう少し離れてくれませんか」




「何で?」




他の人がじろじろ見てくるからです。




「私のスペースを侵さないでください」




「つれないなあ。ほな、ボチボチ四階行ってこよ」




「早く行ってください」




彼は立ち上がりながら



「一昨日はマミヤちゃんからくっついてきたくせに」



と、小声で呟きを残した。




ぼっと顔が赤くなったのを感じて俯く。






その様子はやっぱり見られていて


後から谷本さんに呼び出されて


王子と何かあったのかと聞かれた。




怖い。




「彼氏がいるのに何かあるわけないですよ」




切り札を出した時に気が付いた。





野本くんのことをすっかり忘れていた。





それに


西川さんと話をしただけで事情聴取。



付き合うなんて無理でしょ。



会社を辞めたくない。






昼休み。





谷本さんは私を一瞥すると



王子と親しげに出て行った。





モヤモヤする。





今朝まで感じていた甘い幸せは



あまりにも儚くて



もっと長く眠っていられたら



ずっと夢を見ていられたのに。











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