63.Sな彼女とNな彼

「今さら隠しても無駄やから(笑)」




彼が私の両手をそっと掴んだ。




「見ないでください……」




顔から火が出そう。






彼はベンチに置いてあったコーヒーを飲み切って


地面に缶を置いた。




「俺な、昔から女と間違われたり、ハーフ?って言われたりすんねん」




そして突然のカミングアウトを始めた。




「はい?」と顔を上げた私を見て


話を続ける。




「海外で仕事してた時期もあってな、欧米的なコミュニケーションにも慣れてんねん」




「そうなんですね」




真意が汲み取れず


ぼやけた返事をしていた。




「最近は外国人と間違われることもあるくらいやねん」




「ふふっ、本当ですか?」




「うん。マミヤちゃんは海外に行ったことある?」




「大学の時に交換留学で少し……」




アメリカでホームステイをしていた。




「ほんなら挨拶はスキンシップが基本やったよな?」




「え、ええ。まあ」




それが何か?




と、聞く前にグイッと抱き寄せられた。




「やったら俺も外国人やと思えばええやん」




「お、思えるわけないですよ。すっごい遠回りしましたね(笑)」




驚くほど話が回りくどくて笑ってしまう。




「キスしてもいい理由がいるんやろ?外国人相手に挨拶なら別にええやん(笑)」




張本人も堪えきれずに笑っている。




「無理です!思い切り関西弁じゃないですか(笑)」




「なっ?!ほな、英語やったらいいねんな?」




「そ、そういう問題でもないです!」






I want to kiss you all night long.





囁かれたフレーズは聞き取れなくて



頬に触れた彼の唇が熱くて



頭の中が真っ白になった。










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