60.Sな彼女とNな彼

次の瞬間。






鼻をつままれた。






「嫌がることはせーへんって言うたやろ(笑)」




「う……」




キスされると思ったことを見抜かれ


返す言葉が見つからない。




恥ずかしい。





「大事にしてんねんから」





コツンと頭をぶつけられて



自分が勝手に築いている壁に響く。





「あ、マミヤちゃん。カウントダウンして」




彼が腕時計を私に握らせた。




「何のカウントダウンですか?」




時刻は7時59分。




「もう20秒切ったで。ほな、10秒前からで」




「えっ、10秒前?」




7時59分45秒。




「ほら、10、9、8、7、」




唐突に始まったカウントダウンに続く。




「えっ、5、4、3、2、1、0……?」





午後8時。





ドォンと爆発音がした。




「あっち」と呟いた彼の視線の先で


丸い花火が小さく上がっていた。




「花火だ!何で?」




シーズンには早い。




ドン、ドン、と次々と打ち上がる。




「今日は夏の大会のテスト花火が上がるんやって」




色とりどりの花火を見下ろす。




「うわー、花火を上から見たのは初めてです。丸くて小さいんですね!」




「キレイやな」





私の言葉に相づちを打ちながら


優しく髪を撫でる彼に


知らぬ間に身を委ねていた。





テスト花火はあっという間に終わって


静寂と闇が残された。





「リラックスできたやろ?」




「ふふっ、まさか花火とは思いませんでした」




「サプライズ成功やな」




「はい」






彼は両手でぎゅっと私を抱き締めた。






「じゃあ、ちゅーしていい?」






「それは……、ダメです」










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