58.Sな彼女とNな彼

振り返った彼が



「ちゃんと掴まって」と



私の右手を握る。





胸の奥がぎゅっと締め付けられて



その手を握り返した。





間もなくして



「あ、そこや」と呟いて



休憩所のような所へ辿り着いた。




ポツンと置かれた木のベンチ。





それだけ。





「えっ、目的地ってここですか?」




闇に包まれたベンチ。




「うん」




肝試しでもするつもり?!




「不気味なんですけど……」




「ええから。座って」




繋がれた手はそのままで



二人でベンチに腰を下ろした。






「はー、すごーい」




真正面の木と木の間に



綺麗な夜景が広がっている。




「やろ? 第一展望台やと照明があるから多分ここまで綺麗には見えへん」




「あ、西川さん。あれ、にゃこランドですよ!」




隣県にある大きなテーマパーク。




「うん、そうやな」




「あっ、お城も見えますね!」




「せやな(笑)」




ふっと彼が笑い始めた。





はしゃぎ過ぎた、と我に返ると


急に恥ずかしくなってくる。




手を繋いでいることも。




くっついて座っていることも。





心臓がドクリと音を立てた。





顔が熱い。








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