57.Sな彼女とNな彼
「マミヤちゃん、起きて」
「や、大丈夫……」
「大丈夫ちゃうねん。着いたで」
肩を揺さぶる手を払いのけた。
「今日は休みだから大丈夫だってば……」
声の主に向かって顔を上げると
驚いた茶色い瞳と目が合った。
「に、西川さん?!」
覚醒した私を見て彼は吹き出した。
「ぶはっ。寝ぼけすぎやろ(笑)」
しまった。車で寝ちゃってたんだ。
知らぬ間に掛けられていたジャケットで
顔を隠した。
「ね、寝ぼけてません……」
「どの口が言ってんねん(笑)」
彼は私からジャケットを奪うと
車から降りて、助手席のドアを開けた。
「ほら、ちょっとだけ歩くで」
「ここどこですか?」
どうやら山の中のようで狭い駐車場の周りも
木が生い茂っている。
もう陽は沈んでいて
空は薄紫に染まっていた。
「
車で三十分と掛からない山の上。
「意外と近場で……」
「よく短時間であそこまで熟睡できたなあ(笑)」
ククッと笑い続ける彼の後を
落ち葉を踏みしめて歩く。
辺りが暗くなり始めてきて
ざわざわと揺れる木が少し怖い。
「西川さん、どこまで行くんですか?」
「すぐそこのはずなんやけどなあ」
「西川さん、暗くて怖いです」
「うん、俺も(笑)。マミヤちゃん、掴まってくれる?」
差し出された右手。
つい躊躇ってしまう。
「いや、それは……」
もうお互いの顔すらはっきり見えなくて
会えない恋人の顔がちらつく。
「無理にとは言わんけど、上着の裾くらいは掴まっといて」
彼は私の手を取って
「これならセーフやろ?」と
そっと裾を握らせた。
優しく離れていく手。
つい両手で握りしめた。
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