51.Sな彼女とNな彼

海のそばにある十九浜店は


土曜日にも関わらず


人の姿はまばらだった。




イベントの準備を済ませて


親子連れを中心に


チラシを配り歩く。




「間宮さんは飲食店のフロアもお願いしますね」




「わかりました」




広告の担当者から受け取ったチラシを抱えて


階段を降りた。




エレベーター付近に立って辺りを見る。




ランチタイムもまだまだ先で


お客さんの姿は殆どない。




エレベーターが動いても


違う階に止まる。




場所移動しようかな、と思っていると


オムライス専門店から若い男の子が


一人で出てくるのが見えた。




黒い帽子を目深に被ったまま


通路にあるベンチに座って


携帯をいじり始める。




その様子を何気なく見ていると


おもむろに帽子を脱いだ。




えっ



西川さん……!?




胸がドキッとした。




サマージャケットの袖を捲りながら


携帯から視線は動かさず


こちらに気付く気配はない。




待ち合わせは夕方……だよね。




慌てて携帯をチェックしても


到着を知らせる連絡は入っていない。




こんな早くに何を……?




西川さんは携帯をポケットに入れるなり


立ち上がって隣の洋食店に入った。




あれ?



さっきオムライス屋さんから


出て来たはず……??




しばらく店の出入りを見ていても


西川さんは出て来ない。




やっぱり出て来ない。




んん~??




中の様子が見えないかと


身を乗り出した時。




「間宮さん、すみません」




担当者が駆け寄ってきて


視界に割り込んだ。




「ここのフロアはお客さんが少なかったですね。一階のエントランスで一緒に撒きましょう」




「あ……、はい。わかりました」




西川さんの姿を確認できないまま


その場から離れた。




すべてのチラシを配り終え


イベント会場に戻って


控え室の奥で台本に目を通す。




大きく深呼吸をして


目を閉じて頭をカラッポにする。




よし、今日も頑張るぞ!




思い切り背伸びして時計を確認する。




「時間ですね。では、よろしくお願いします!」




スタッフ一人一人と


あおすけの着ぐるみに目配せして


マイクを持って舞台に上がった。










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