48.Sな彼女とNな彼

イベント当日。




自宅から自転車で行けるほど


近くにあるショッピングモールで


我が社の看板キャラクターの一つ


あおすけの撮影会。




今年初の夏日を迎えたばかりで


汗ばむ陽気。




食欲がなくて


朝食を食べられず


体調は良くなかった。





午前中の撮影会を


何とか無事に乗り切り


お昼休憩に入った。




「間宮さん、一時からの整理券も配布してすぐになくなりましたよ!」




「良かった~」




企画部の前任者の手配ミスで


告知がギリギリになってしまって


人が集まるか不安を抱えていた。




「安心したところでお昼一緒に行きましょう」




「私はお弁当があるのでごめんなさい」




スタッフの人たちの誘いを断り


汗だくの服を着替えて


休憩室で一人でお弁当を食べた。




あっつい……。




エアコンは入ってるはずなのに


ちっとも涼しくない。




頭がクラクラする。




「間宮さん、そろそろ準備お願いします」




「はーい」




立ち上がった瞬間。




ふうっと目の前が暗くなって


意識を失った。






目を覚ますと


救護室のベッドに寝ていた。




「間宮さん、気が付きましたか?」




一昨日仕事で会ったばかりの人が


丸イスに座っている。




「……大江さん?」




起き上がろうとすると


「あ、ゆっくり起きて下さい」と


両手でストップの合図をされた。




のそっと起き上がって


差し出された水を飲む。




「ここは……?」




「ショッピングモールの救護室ですよ」




はっ!




「午後のイベント……!」




ベッドから降りようとするのを


止められた。




「大丈夫ですよ。着ぐるみは間宮さんの代役の方が頑張ってますから」




「代役?」




「ええ。もうそろそろ戻って来ると思いますよ」




「誰が……?」





コンコンッ。




ノックされた扉が開いて


見慣れた顔と目が合った。




黒いTシャツにデニム。




首からタオルを巻いて


濡れた髪がオールバックに


なっていた。




「西川さん……! もしかして」




「着ぐるみってクッソ暑いんやな。そりゃ倒れるわ」




「代わりに入ってくれたんですね」




「うん、まあ、それより大丈夫か?」




「私はもう平気です。本当にご迷惑お掛けしてすみません」




暑さと疲労と睡眠不足による貧血、と


お医者さんに言われて


休養するように、との事だった。




「イベントの片付けはスタッフの人が任せて下さいって言うてるから、マミヤちゃんはもう少し横になっといて」




「……はい」




皆に迷惑を掛けたことに


激しく自己嫌悪。




「しょうがないやん。人間なんやから体調が悪い時もあるやろ。ほら、まだ顔色が良くないから寝とき」




「ひゃっ!」




冷たいおしぼりを額に当てられ


「ほらほら」と寝るように追い込まれた。




「大江はスポーツドリンク買って来て。マミヤちゃんのと、俺の分」




「わかりました」と大江さんが出て行く。




終わってすぐに来てくれたんだ。




私のため……?




「きょ、今日はわざわざイベントに来てくださったんですか?」




「あー、いや、ココから会社が近いねん。午前は出勤やったから、ついでにな」




「そうだったんですか」




「帰りは車で送るわ。家、近くなんやろ?」




あえて言わないでおいたのに


彼が知っていて驚いた。




「な、なぜそれを?!」




「なんちゅー顔してんねん(笑)。スタッフの人が言ってたから」




「秘密にしておいたのに」




「なんでやねん(笑)。うちの会社とご近所さんなんやな」




無邪気に笑うのが可愛くて


まだ汗を拭っている彼の横顔を


見つからないように見ていた。











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