40.Sな彼女とNな彼

一時間後。




彼が戻ってきて


「どこまで終わった?」と


聞いてきた。




「中部の途中までです」




「ほな、俺は九州からやろかな」




座ってパソコンに向かった。




「じゃあ、きっと中国ブロックで合流ですね」




彼が私を見てふっと笑う。




「なんでやねん。関西ブロックで捕まえたるわ(笑)」




「私もうすぐ中部終わりますよ?」




「そうやな」と笑いながら


ハガキの束を手に取って


入力を始める。




「あっ! 西川さん、フライング!」




「マミヤちゃんは俺より一時間以上早くスタートしてるやろ(笑)」




「卑怯者。負けませんから」




彼がピタと手を止めた。




「ほんならヨーイドンでええけど」




「もちろんです」




「俺が勝ったらプレゼントしたバレッタ着けて来て」




「えっ」




私より西川さんの方が速いけど


量的にはコッチが有利に決まってる。




「いいですよ。その代わり私が勝ったら……」




プレゼントはお返しします。




というのは失礼極まりない、か。




「勝ったらどうすんの?」




「マミヤちゃんじゃなくて、間宮さんって呼んでください」




彼は一瞬キョトンとして


笑い出した。




「ははっ。構わんけど(笑)」




「何がおかしいんですか」




「ううん。マミヤちゃんは可愛いなあと思って」




かっ……、可愛いって。




そういうことばかり言うから


沢山の女の子が翻弄されるんでしょ。




照れてちゃ駄目だ。




「じゃあ、行きますよ。よーいスタート!」




「いきなりやな(笑)」と笑ってた彼から


笑みが消えた。





北山さんとは雑談しながら


作業をしていたけれど


鋭い集中力で作業をしている彼には


話し掛けてはいけない雰囲気だった。




すべすべの白い肌も


長い睫毛も、大きな瞳も、高い鼻も


……羨ましい。




「必死にやらな俺には勝たれへんで(笑)」




次のハガキの束を手に取りながら


彼が笑って言った。




見惚れていた自分が恥ずかしい。




「わかってますよ」




私も作業に集中した。





近畿ブロックの途中で


お昼十二時を知らせる鐘が鳴る。




「西川さん、お昼なので休憩してくださいね」




「休戦やな(笑)」と後片付けをしていた。




舞が私の席にやって来て


「実結、外で食べるよね」と


ランチに誘ってくれた。




そして、隣にいる彼にも


「西川さんも一緒に行きますか?」と


声を掛けている。




「ありがとう。俺は先約があるから、また今度な」




「え~、そうなんですかあ。残念」




しゅんとする舞と


胸を撫で下ろした私。




会社の前の信号を渡った所で


「私一本電話してから行くから、先に行ってて」


と舞を見送った。




駐車場にある自販機の裏で


携帯を手に取った。




ドキドキしながら


野本くんに電話を掛けた。



















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