39.Sな彼女とNな彼

新しいソフトを使って


一枚一枚のハガキを入力する。




作業に没頭していると


余計なことを考えずに済む。




休憩しようかと伸びをした時


引き出しに入れてある携帯が


ブブブと震えた。




野本くんだ……!




携帯を持って


トイレへと向かった。




鏡の前でメールを開く。




『今日の昼くらいに電話できる?』




え?




それって……




私の誕生日だからお祝い?




それとも、別れ話……じゃないよね?




膨らんだ気持ちが


期待と不安の狭間で揺れる。





「実結、お疲れさま!」




携帯を握ったままの私の肩を


舞がポンと叩いた。




「ビッ……クリしたあ」




「ごめんね。携帯持ったまま固まってるんだもん。どうしたの?」




「彼氏からメールが来たの」




「うっそ。良かったじゃん! 早く会えるといいね」




うん。


悪い方に考えても仕方ない。




「夜行バスと新幹線と、どっちで行こうかな」




しばらく話してトイレから出ると


廊下で谷本さんと鉢合わせた。




「お疲れさまです」




会釈して通り過ぎようとした時




「間宮さんって本社に来る前から王子のこと知ってたの?」




笑顔で聞かれるのが怖い。




「いいえ?」




「そう。さっき何の仕事してたの?」




穏やかな口調も怖い。




「西川さんにお客さまアンケートを管理するソフトの使い方を教わりながら作業してました。会議が終わったら二人で続きをやります」




「そっか。頑張ってね」




しなやかに振る手も怖い。




目の奥が全然笑ってない。




彼は誘いに応じただけと言うけど


あの優しさを一晩でも独占したら


もっと愛されたいと思うのは


至極当然のように思える。





私には野本くんがいるから。





『昼休みに電話するね』




メールするとすぐに『わかった』と


返信が来た。




良い方に考えればいいのかは


わからないけど


久しぶりに電話できることは


素直に嬉しかった。












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