37.Sな彼女とNな彼

家に帰って


明日の準備が終わる頃


午前0時を迎えた。




携帯が何度も鳴る。




『お誕生日おめでとう!』




友達から音楽や画像付きの


賑やかなメッセージが


入ってくる。




野本くんからのメールはない。




それは今に始まったことではなくて


日付が変わった瞬間にお祝いなんて


洒落たことをする人じゃない。




「期待なんてしてないけど」




心の呟きが独り言になる。




来ているメールにお礼を入れて


ベッドに潜り込んだ。




結婚して遠くに越した親友から


『実結もアラサーの仲間入りだね!』


とさらに返信が来た。




アラサー……。




独身の私には重い言葉。




『気持ちは19のまんまだよ(笑)』




『私も(笑)』




ふふっ。




気を許せる数少ない友達も


遠くへ行ってしまって


思うようには会えない。




「会いたい」




友達にすら言えない。




私は何に遠慮してるのだろう。





孤独の夜に迎えた誕生日。





カーテンを閉め忘れていて


朝陽の眩しさに目が覚めた。




窓を開けると


初夏の風が吹き抜ける。




鳥の声。青い空。新しい緑。




清々しい気分で早めに家を出た。




会社に着くと


空席のはずの隣のデスクに


ビジネスバッグが置かれていた。




新入社員の配属決まったのかな?




肝心の持ち主は現れないまま


始業時間が過ぎた。




「課長、誰のバッグですか?」




右隣に座っている課長は


バッグだけがあることを


気に留めていないようだった。




私の指差す方を一瞥して


サラリと言う。




「ああ、西川くんのだよ」




はい?




「な、何で……?」




前にあんなことがあったばかりで


顔を合わせづらい。




「昨晩からネットワークの調子が悪くてね。朝早くから来てもらってるんだよ」




きっとサーバー管理室にいるんだ。




出来れば会いたくない。




「どうしてバッグがココに?」




「お客様アンケートも一括管理することになったから、間宮さんは西川くんにやり方を教えてもらって」




「ええ?! 北山さんは??」




昨日一緒に作業していたのに


そう言えば今朝から見てない。




「今日は代休でいないから、ちょうどいいでしょ?」




代休?!




残り半分を一人でやれと言われたら


きっと今日中には終わらない。


彼がいてくれたら助かる……けど。




「北山さんのいる日にしましょうよ」




食い下がっても無駄だとは


わかっていてもやめられない。




「間宮さんが早くハガキを引きたいって言うから急いでお願いしたんだよ」




後悔先に立たず……!




「それは、ありがとうございます……」




はあ、とため息をついた。




「そういうわけやから、二人で頑張ろっか。マミヤちゃん」




振り返ると西川さんがいて


ニコニコと笑っていた。




「い、いつの間に……」




「さっきの間やけど。そない嫌がらんでもええちゃう?」




「どっから聞いてたんですか……」




「ちょっとだけな(笑)。俺まだ別の部署との打合せもあるから、先に説明だけしていい? 入力はまた後で手伝うから」




隣に座ってノートパソコンを広げながら


私の方を見て笑う。




「そんな警戒せんでも嫌なことはせえへんやんか(笑)。ほら、マミヤちゃんもログインして」




邪念ばかりの私を嘲笑うように


彼はテキパキと進めて行く。




告白してきたのはソッチのくせに


私ばかりが心を乱されてる。




何なの、もう……。




真剣な横顔に胸のドキドキが収まらない。




気持ちと体がちぐはぐな反応を示す。




自分で自分のコントロールは出来ない。











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