38.Sな彼女とNな彼

「……マミヤちゃん、聞いてる?(笑)」




「えっ? あ、はい」




完全に上の空だった。




「まあええわ。一時間くらい席外すから出来る分だけやっといて」




「わかりました」




「困ったらマニュアル見て。重要なとこには付箋してあるから」




「ありがとうございます」




課長が先に席を立って


「西川くん、先に行ってるよ」と


声を掛けた。




「すぐ行きます」と応えた彼が


足元に置いてあるバッグから


ファイルと小さい紙袋を出した。




紙袋を私のデスクに置く。




「これ、こないだ俺が持って帰ってしまったんやけど」




「ん? 何ですか??」




「頭につけてた奴なんやけど、留め具を壊してもうたみたいで」




開けるように促されて


周りに見られてないか確認しながら


そっと開封した。




バレッタ……が




二つ。




車の中で彼に外された記憶が


ありありと蘇る。




体温が一気に上がった。




「同じ物は見つからんかったから似たようなんでごめんな」




彼も照れたように目を逸らした。




生まれた微妙な空気に堪えられず


恥ずかしさを隠すように


いそいそと袋から出した。




小さな花にピンクの蝶が舞う。




新しいバレッタの裏には


人気ブランドの名前が入っている。




「これ、高いんじゃないですか?! 私のは百均の安物なんです。受け取れません」




「そんな高ないから」




「でも百円以上しますよね?!」




彼がぷっと吹き出した。




「それはそうやな(笑)」




「笑い事じゃないです。本当に困ります」




「そんな必死にならんでも(笑)。今週が誕生日なんやろ? 俺からのプレゼントってことで」




ドキリとした。




実は今日誕生日なんです……。




「あの、でもっ」




「返されたら俺が困るから受け取っといて」




「えっと……」




どうしよう。




「お誕生日おめでとう、マミヤちゃん」




その一言が嬉しすぎて。




「アリガトウゴザイマス……」




両手で包み込んだ。




「うん(笑)。ほな、俺もう行かなあかんから。ぼーっとしてんと仕事しといてな」




「ハイ」




彼がファイルを抱えて


立ち上がった。




横目で後ろ姿を見送る。




そのまま彼を追っていると


受付の谷本さんと目が合った。




睨まれてる気がして


私は急いで仕事に取り掛かった。














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