34.Sな彼女とNな彼

駅前にある古びたビル。


入口にある看板に『占』と


書いてある。




学生の時に遊び半分で


占いごっこはした事あるけど


本職の人に見てもらうのは


とても……怖い。




「楽しみ~」と言う園子と


「私は前にも来たことあるよ」と


嬉しそうに言う舞に続いて


階段を上った。




古い蛍光灯の廊下を進んで


突き当たりが占いの部屋。




ドアを開けると


パワーストーンや開運グッズが並ぶ


硝子のショーケースがあって


受付の女の人が立っていた。




「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」




「いえ、違うんですけど、今から無理ですか?」




舞が聞くと


受付の人は台帳を見ながら


小声で答える。




「テルス先生なら今のお客様が終わったらご案内できます。流限りゅうげん先生は本日は予約でいっぱいです」




「よく当たるって言われてるのは流限先生なんですよね?」




「テルス先生も評判の良い先生ですよ」




「どうする?」と舞が振り返った。




「じゃ、私はテルス先生で」と


園子は即決した。


舞も前は流限先生に見てもらったから


今回はテルス先生にお願いすると言う。




「私は違う日にして流限先生にするよ」




心の準備が整っていなかった。




「実結を占ってもらいに来たのに?」




「せっかくなら舞のオススメの先生の方がいいから」




「そっか。じゃ、実結が行く時にはついてってあげるからね」




「うん。ありがとう」





十分ほど待つと


薄い扉の向こうから


若い女性が出て来た。




お会計を済ませると


受付の人が私たちを見て


「中待ち合いにはご一緒にどうぞ」


と入らせてくれた。




「ドキドキするね」なんて


話しているうちに園子が呼ばれて


カーテンの中へと入って行った。





「何を占いますか?」




「えーっと、恋愛運と結婚運……」




簡素な仕切りの部屋の話し声は


まさに筒抜けだった。




「ね、ねえ。これ、中の話が聞こえちゃうね……」




ヒソヒソと舞に言う。




「静かにしてると丸聞こえだね。逆に流限先生の方は全然聞こえないね?」




「本当だね」




すると


受付の人が薄い扉を開けて


顔を覗かせた。




「流限先生のお客様が予約をキャンセルされたのですが、いかがいたしますか?」




舞と顔を見合わせた。




「実結、ラッキーじゃん! 行っておいで」




受付の人が頷いて姿を消した。




反対側のカーテンの向こうから


「どうぞ」と男性の低い声がした。




すっかり油断していて


何の装備も持たずに旅に出る気分だった。




恐る恐るカーテンの中へと入る。




小さなテーブルの向こう側には


白髭の優しそうなおじさんが


ニコニコと座っていた。




少しホッとして


おじさん……流限先生に促されて


椅子に座る。




「何を占いましょうか?」




流限先生は両手で


テーブルに広げたタロットを


ゆっくりと混ぜ合わせ始めた。










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