27.Sな彼女とNな彼

甘い甘いミルクティーを飲みながら


せわしなく動く彼の指先を


見つめていた。




私なら倍以上は掛かりそうな作業を


本当に一時間で終わらせた。




スキルチェックも性格診断も


グラフも綺麗に作られて


個人結果と全体結果が一目でわかる。




「はい、完成」




仕上がったレポートは


色鮮やかで美しくて見やすい。




「神業ですね!」




「大袈裟やな(笑)」




「本当にすごいです。講師も何でも出来るんですね」




「そうやな」と彼が優しく微笑むから


胸の奥が熱くなった。




不思議と泣きそうになる。




「わ、私は片付けてから帰るので、西川さんはもう帰ってくださいね」




レポートにメモをつけて


課長のデスクに置く。




「夕飯時やし、一緒に食べて帰らへん?」




はい、と答えたくなってしまう。




「いえ、遠慮します」




「せっかくやから付き合って欲しいんやけどなあ」




「今日はちょっと用事があって……」




ロクな言い訳も見つからない。




「そっか。ほな、駅まで送るから一緒に帰ろ」




「な、何で?!」




「足痛いんやろ?」




湿布のチラ見えしている足首を


彼が指差した。




「いや、これは……」




「ずっと引きずるように歩いてるし、無理せん方がええやろ」




夕方になって浮腫んだせいか


患部は鈍く痛む。




「痛くないですよ」




「同じ方面やから家まで送ってもええんやけど」




「え、いや、それは……困ります」




「ほな、駅までな」




「……はい」





正面に車を回そうか、と


聞かれたけれど


誰かに見つかるのが嫌で


駐車場で落ち合うことにした。




先に行ってもらって


飲み残したコーヒーを見て


彼の何も言わない優しさが


これでもかと私の胸を打つ。




デスクに置かれた名刺には


付箋が貼ってあって


『NN』の文字の隣に


私用の携帯番号とアドレスが


小さく書かれていた。




『Noriki Nishikawa』




名刺の裏には英字で書かれていて


そっちの方が彼に似合うな、なんて


思いながら手帳に挟む。




今日が終われば


しばらく彼と会うこともない。




大丈夫だよ、と胸を撫でて


会社を後にした。












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