28.Sな彼女とNな彼

彼の待つ駐車場へと急いだ。




信号を渡ってすぐに入口があって


中に入って探す。




奥まで歩いて行くと


彼は車の脇に立って


夜空を見上げていた。




「今日の月もキレーやなあ」




私の気配に気付いた彼が呟く。




「今宵は満月ですからね」




「駐車場、一番奥しか空いてなくてごめんな」




「あ! 待って」




助手席のドアを開けてくれた彼の足元に


小さな白い花が鈴なりに咲いている。




「おっと、上ばっか見てて全然気付かんかったわ。こんなとこに……スズラン?」




おそらく隣の民家の庭から


勝手に繁殖してきたのだろう。


フェンスの向こうまで


緑の葉がひしめき合っている。




「スズランですね。いい香りがするんですよ」




彼が一度ドアを閉めて


しゃがんで鼻を近付けた。




「ほんまや。甘い……マミヤちゃんの匂いに似てる?」




「あ、私の香水はスズランだからかも。好きなんです」




「ええ匂いやなあ。これって勝手に生えてるんやんな? 摘んでもええよな」




伸ばした彼の手を


慌てて掴んで止めた。




「駄目ですよ! スズランって毒があるから素手で触れたら手が荒れちゃいます」




「そうなん……」




しゃがみ込んだ私の目と彼の目が合う。




彼が私の手を握り返した。




心臓がきゅっと痛む。




「前にもこんなことなかったっけ?」




「え……?」




「やっぱり俺、マミヤちゃんと前にどっかで会ってるよな?」




「ナンパですか?(笑)」




握られた手をほどく。




「ちゃうちゃう(笑)。なんやったっけ? 思い出されへん……」




彼が前髪をかき上げた。




「私と誰か似た人でもいたんじゃないですか?」




立ち上がろうとする私の手首を彼が掴む。




「ユリア。もしかしてマミヤちゃんって下の名前はユリアって言う?」




「また漫画のネタですか?(笑) 違うに決まってるでしょ」




マミヤユリアなんて語呂が良くない。




「そっか。ふと頭に浮かんだんやけどな」




「全然違いますから。漫画の読み過ぎかアニメの見過ぎですよ」




今度こそ立ち上がると


研修前に彼から貰った石が


ポケットから落ちた。




彼が拾って立ち上がる。




「大事にしてや。希少なスリランカのブルームーンストーンなんやから」




私の手のひらに置く。




「あ、ムーンストーンなんですね。綺麗……。本当に貰っていいんですか?」




青く光る石を摘まんで月にかざした。




「もちろん。月の女神の石、なんやって。マミヤちゃんにピッタリやろ?」




「私が女神なわけないでしょ(笑)」




彼が助手席のドアを開ける。




「俺には女神様に見えるんやけどな」




その一言は聞こえなかったフリをして


車に乗り込んだ。









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