22.Sな彼女とNな彼

翌日。




研修は午後からなのに


朝からソワソワしてしまう。




まるで初めてのデートに行くような


くすぐったい胸の疼き。




はっ!


昨日のことは違うんだってば……。




鏡の中の自分に呟いた。




いつもより濃くなってしまったメイクを


綺麗に洗い流した。




ナチュラルメイクをして


長い髪をくるくると手で捻って


軽くまとめ上げてバレッタで留める。




ベージュのパンツスーツに


茶色いペタンコ靴。




ちらりと見える湿布が情けないけど


昨日よりも足首は腫れていた。





「いい天気……」




澄み渡る空。



鳥の鳴き声。



若葉の匂い。




心地よい風を吸い込んで


駅まで急いだ。




痛みが気にならないくらい


足取りは軽い。





会社に着いてからは


余計に落ち着かなくて


振り切るように仕事に集中した。





午後。




外でランチを食べて


会社に戻ると


彼は受付で谷本さんと


お喋りをしていた。




やっぱり単なる女好きなんだ……。




浮かれていた自分が滑稽に思えた。




ナンパ野郎の手口にまんまと引っ掛かって


いとも簡単に心を奪われた。




情けない……。




彼に気付かれないように


遠回りして席に戻った。




なのに、すぐに彼はやって来た。




「マミヤちゃん……」




「昨日はありがとうございました。今日もよろしくお願いします」




事務的に挨拶をした私に


キョトンとする。




「何か冷たない?(笑)」




「そうですか? 普通ですけど」




「もしかして蘭ちゃんのことも知ってるん?」




谷本さんって蘭子って名前だっけ。




「仲良さそうで」




ニッコリと笑って言った。




「いや、まあ……。仕事で話をせなあかんことは色々あるからなあ……」




社外の人は受付で手続きをしなければ


中で作業は出来ない。




「別に私には関係ないですから」




言い捨てて課長の待つ会議室へ向かう。




モヤモヤもイライラも収まらない。




ドアの前で大きく深呼吸をした。











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