20.Sな彼女とNな彼

FM放送からは


90年代のラブソングが


静かに流れていた。




一言も喋らない彼の横顔を


何度も盗み見た。




この胸の高鳴りは


シチュエーションのせいに


違いないよね。




だ、誰だって


あんな風に抱き止められたら


キュンとしてしまう。




私だけじゃないよ。




そうやって彼は沢山の女の子から


手を出されてるわけなんだし。




気の迷い……だよね。




「あんまりチラチラ見られると気が散るんやけど(笑)」




ひっ。


見てたのがバレてた……。




「ごめんなさい」




「別にええけど……(笑)」




丁寧すぎるくらいの運転に


安心して考え事に集中していた。





信号で止まると


彼はこっちを向いた。




「今してるネックレスも彼氏からのプレゼント?」




無意識に指先でいじっていた。




「いえ、これは父から貰った物です」




乳白色の石を撫でる。




「ムーンストーンってことは六月生まれ?」




「ブー。誕生日は五月です」




「今月? いつなん??」




「来週です。それよりよくムーンストーンが六月の誕生石って知ってますね」




一般的には


六月の誕生石は真珠って


思ってる人が多いはず。




「あー……、スリランカに行った時に天然石の売買しようかって心揺れた時もあったから(笑)」




インドの南東にある島国。




「スリランカ? 旅行ですか??」




「いや、インドに住んでた時に仕事でちょっとね」




信号が変わり、彼は前を向いた。




インドで仕事? スリランカ??




この人は何者……???




綺麗な横顔をじいっと見つめた。




通った鼻筋に長いまつ毛。




女の子みた……




「じっと見られると運転しづらいわ(笑)」




改札前のロータリーで停まって


ハザードランプを点けた彼が笑う。




「あ、もう着いたんですね」




名残惜しく思うのは


きっと満月一日前の月光に


当てられたからだ。




彼がさっと運転席を降りて


助手席のドアを開けて


手を差し伸べる。




私は自然とその手を取っていた。










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