19.Sな彼女とNな彼

信号を渡りきる直前で


ヒールが段差に引っ掛かった。




よろけた私を


彼は両手で受け止めて


一瞬ぎゅっと抱き寄せた。




「本日二回目やな(笑)」




顔を近付けて言うから


キスされるかと思った。




見つめ合うと


どうしようもなく胸が熱い。




「気ぃつけや」と抱かれた肩から


全身に熱が広がる。





彼の香りと温もりの中で


恋に堕ちた確かな感触が


心と体の全部を支配した。





ふわふわと雲の上を歩くみたいに


上手く足に力が入らない。




彼に支えられながら


助手席に座り込んだ。




「大丈夫? 足挫いたんちゃう?」




心配そうな顔をする彼の


髪や服に光る雨露が美しい。




眩しそうに見上げる私の


目線を追って彼が空を見上げた。




雲の切れ間から月が覗く。




「月出てるやん」




「雨、止みそうですね」




静かに速く刻まれる鼓動が


とても心地いい。




「満月やなあ」




「満月は明日です」




「そうなんや」




月の周りに虹色の輪が見えていた。




首元のムーンストーンのネックレスが


光を集めてじわりと重みを増した。





精算を済ませた彼が運転席に乗り込む。




「足痛むんやったら家まで送るで?」




「いっ、いいえ。それは本当に大丈夫です。駅までで十分です」




家までなんて申し訳なさ過ぎて無理!




本当に大丈夫と強く断った。





「ほんまに大丈夫?」と


彼がサイドブレーキを押し下げる。




何度も頷く私を確認して


車はゆっくり発進した。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます