60.Sな彼女とドSな彼

キョロキョロと辺りを見回しても


サヤカの姿はなかった。




まいっか。




コウちゃんじゃなくて剛なら安心やし。




亜湖がクイっと袖を引っ張る。



視線を移すと


上目遣いに紀樹を見つめる。




うわっ。




一瞬引き込まれそうになる。




「ノリ君、私と……」




言い掛けた亜湖から目が離せない。





その時。





バッシャーーーン!!!





「きゃーっ!」と歓声があがる。




対岸の深みのところで


二メートルほどの大きな岩から


大学生くらいの男の子が


川へとダイブした。




お仲間らしき男女が


キャーキャーと叫びながら


次の順番を決めている。





「うわー、すごいなあ!」



驚いて声を上げた。




我に返る。




あぶな。



"付き合って"って言われたら


"うん"って言うとこやった。





はしゃぐ若者たちの


歓声や悲鳴に誘われるように


小学生までやってきて


一気に賑やかになった。





「ノリ君もやる?」




亜湖が聞いた。




「無理無理! 俺高いとこ苦手やもん(笑)」




わざわざ高いとこから飛ぶなんて


意味がわからん。




「そうなんだ?! 意外だね。絶叫マシンとか好きそうに見えるのに」




絶叫マシンも無理。




「これでも繊細やから。亜湖はやりたいん? 行ってくるか?」




「どうしよっかな……」




亜湖はしばし考え込みながら


川の水を足でかき混ぜる。




こういう仕草も可愛いなー……。




そこへ


どこからともなく現れたサヤカが


おずおずと話し掛けて来た。




「あの、邪魔して悪いんだけどね? 剛くんがあそこで飛び込むらしいから、どうか温かい声援を一つ……」




剛が?



高いとこ好きやったんや。




意外。




「よーやるわ」




俺は呆れて言ったが


亜湖は瞳を輝かせた。




「私も行ってくる!」




すくっと立ち上がって岩の上へ向かう。






バッシャーーン!!!





小学生が飛び込んだ。




すげーな。




続いて剛が岩の上に立つ。




後ろには亜湖の姿が見えた。




「ツヨシ、いきまーす!」




バッシャーーン!!!





水から上がる剛が濡れた髪をかき上げる。




やるなー。





「西川さーん。ちょっと剛くんカッコいいじゃないですか。西川さんも飛んで来たらどうですか?」




「あほか。怪我したらどうすんねん」




「そんなヘタレ発言してたら剛くんに亜湖を取られちゃいますよ?」




お前が言うな。




「俺は別に……」




「またまた〜。西川さんも亜湖みたいな子がタイプですよね」




それは確かにそうなんやけど。




「ま、まあ……」




「あ、亜湖も飛びますよ!」





バッシャーーーン!!!





どうやら飛込みポイントは深いらしく


剛が亜湖の腕を引き寄せていた。




「亜湖もヘーキで飛ぶんやなー」




俺には無理やな。





「サーヤも飛べば?」




「…………えっ?」




「人の話聞けよ」




「す、すみません……」





変なヤツ。




いつも変やけど。








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