39.Sな彼女とドSな彼

歩いて一分ほどの焼鳥屋は


店主の趣味で日本酒の品揃えが


この辺りでは一番多い。




サヤカに「おごり」だと言うと


ロクに食べもしないで


高い酒を頼んでいた。




酒は百薬の長とは言うけれど


"酒は飲んでも飲まれるな"が


大人としてのたしなみ。





張り合う以前の問題として


まだ少ししか飲んでないやん。




女とサシで飲みに行って


酔い潰すつもりなんか


毛頭ない。




そんな事しても面白くないし


ましてや信楽焼相手に


欲情することもない。




「もう一軒行きましょうよ」




高いテンションとは裏腹に


完全にサヤカの目はイッている。




「あほか。もう飲むな。帰れ」




こっちは飲み足りないくらいやけど


これ以上は無理やろ。



まさか三杯やそこらで


酔い潰れるとは


完全に想定外やった。




弱すぎるやろ。




「えー」とほざくサヤカを連れて


早々に店を出た。




「一人で帰れるか?」




「大丈夫です〜」




フラフラと歩くサヤカが


駅の方へ向かう。




「おいっ! お前は歩いて帰るんやろ! 家はあっちやから……」




駅と反対側を指差すと


「そーですかー」と笑いながら


絵に描いたような千鳥足で


家の方へ歩いて行く。




大丈夫じゃないよな……。




「送るから……」




ため息をついて


今にも転けそうなサヤカの腕をつかむ。



すると


逆に腕を絡めて来て


ぎゅっとしがみつく。




「俺が誰かわかってるか?」




「ん~……」




さらに酔いが回ったのか


まともな返事が返って来ない。




まあいいか。




「しっかり掴まっててな」と言うと


コクリと頷く。




こいつ、重いねん……!




思い切り体重を預けられて


必死に歩いた。


何とかマンションに到着したものの


部屋番がわからない。




「サーヤの部屋って何号室?」



「えぇっと〜……」とは言っても


まともな答えは得られない。




仕方なくバッグと財布を開けて


免許証と鍵を取り出した。




部屋番号を確認しながら


ドアを開ける。




ガチャリと開いて


どうやらサヤカの部屋で間違いない。




ホッとして電気をつけた。




玄関に荷物を置いて


サヤカの腕を離そうとすると


急に首に手を回してきた。




「置いて行っちゃ嫌だ……」




タヌキが女に化けて


甘い声を出す。




「えっ」




耳に唇が触れて


柔らかい感触と熱い息が


伝わってくる。




「置いてかないで」




ええっと……。




それって



そういう意味で解釈してええんかな。









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