33.Sな彼女とドSな彼

誰かさんの心配をしていて


自分が心配されてる立場だってことは


すっかり忘れていた。





久しぶりに幸治こうじから呼び出されて


仕事仲間のつよしと三人で飲みに行った。


一緒の現場で仕事している時に


毎日のように三人で飲んでて


大人になってからの友達にしては


腹を割って話せる貴重な関係やと思う。





「元気そうやん」




幸治が笑って言う。


特に幸治は年も出身も同じで


昔からの友達みたいに感じる。




「コウちゃんのお陰やんか」




全部がスッキリしたわけじゃないけど


違う男に取られた彼女を


未練がましく思うのはやめた。




「何かあったんですか?」




剛は幸治と俺とを交互に見た。


剛は年下なこともあって


何回言っても敬語も抜けへんし


可愛い後輩みたいな気がする。




「紀樹なー、彼女に振られて落ち込んでたからなあ(笑)」




「マジっすか?! 紀樹さんでも振られることあるんですね!」




どんなイメージやねん。




「振られた事なんかナンボでもあるよ」




「泣くほどの失恋も(笑)?」




幸治がニヤリと笑う。




「それは言わんといて(笑)」




優しさに気が緩んだだけやから。




泣くほどの失恋なんて


生涯これが最初で最後や。




「紀樹さんでも失恋して泣くことあるんですね!」




剛が目を丸くした。




だからどんなイメージやねん。




「泣きたい時だってあるやん……」




茶化すように可愛く言って


はぐらかそうとしたのに


幸治が話を続けた。




「間宮さん可愛かったもんな」




ん?




「コウちゃん何で俺の彼女の名前知ってんの?!」




幸治と剛には彼女を紹介してない。




「ははっ。やっぱそうやったんや。うちの会社も彼女の会社と取引しててな。間宮さんが紀樹の車に乗ってんのを見たことあるから、もしかして〜って思っててん」




うわ、カマかけられたんか。




「俺めっちゃ知り合いに見られてんねんな。前に会社の子にも目撃されてるし……。別にええんやけど」




「案外世間は狭いからなあ(笑)。っと空腹も満たされたし、カラオケ行こ」




幸治の提案に


剛が「いいですね♪」と答えた。




「何で急に……?」




このメンバーでカラオケに行くのは


初めてのことだった。




「失恋には歌が一番やんか。俺が紀樹のために失恋ソングを歌ったるわ」




「いらんわ(笑)」




歌なんていらんけど


コウちゃんの心遣いは嬉しかった。

















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