34.Sな彼女とドSな彼

煙草の匂いの残るカラオケルームで


狭い部屋に男三人。




「お前ら俺を泣かす気やろ?!」




失恋ソングというものは


傷付いた心には深く沁みる。




ひたすら歌われ続ける


失恋ソングのオンパレードに


胸の奥がうずく。




下手クソなくせに


カラオケ好きの実結が思い出されて


何とも言えない気持ちになる。




思いの外、剛は歌が上手い。




「紀樹さんも失恋曲以外は駄目ですよ♪」




調子に乗りやがって……!




「お前らが振られた時には絶対やり返したるからな(笑)」




半分ヤケになって曲を入れる。




歌い終わると


剛が涙目で抱きついてきた。




「紀樹さぁん、泣けます……」




「離れろ(笑)。俺は男を抱く趣味ないねんw」




「っていうか、紀樹さんって期待通りに歌上手いですね」




「あー、バンドしてた時はちゃんと練習してたからなあ」




「わー、めっちゃ似合いますね」




感心する剛の横から


幸治が茶々を入れる。




「でもな、バンドやってるとモテ過ぎて面倒なんやって。腹立つやろ~(笑)」




「事実やもん。しゃーないやろ(笑)」




「だから辞めたんですか?!」




羨ましい! と剛が叫ぶ。




バンドを辞めた理由は


めちゃくちゃ好きでやってたんちゃうし


興味の矛先がパソコンに向いたから


やる気がなくなっただけやねんけど。




次に流れてきた曲を


思わずリモコンでストップさせた。




「何するんですか?!」




「あほか。その歌は歌うの禁止や」




実結の十八番おはこの上に


消せないアドレスを眺めてる自分と


どうやっても重なる。




「泣いちゃうもんねえ(笑)」




幸治が爆笑した。




言い返す言葉は見つからない。




「えー、じゃあ何にしよかな」と


剛がブツブツ言ってるのを横目に


幸治が次の曲を入れた。




「紀樹を泣かせてみよかな~」




「既に十分泣きそうなんやけど……w」




幸治の声はどこか艶っぽくて


男でも聴き惚れてしまう。




「泣きたかったら泣いてええからな」




剛の前では泣く気はない。




幸治がマイクを握り直した。




実結と付き合ってた頃


ドライブの度に聴いていた。




ほんまに泣きそう……。




って、これは



「失恋ソングちゃうやん!」



ツッコミを入れる俺の隣で


剛が号泣していた。




「紀樹さん……、もう一度向かい合わせで恋できたらいいっすね(涙)」




「何でお前が泣くねん(笑)」





あほやな。





でも


代わりに泣いてくれて


心が軽くなった。





ありがとう。





もう大丈夫やから。











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