30.Sな彼女とドSな彼

女を抱いても気持ち良くなかったのは



悪酔いしたままベッドインした時以来で



「好き」と言われて腹が立ったのは



初めてのことだった。





虚無感と罪悪感だけが残る。





二日酔いより最悪。





煙草を一本吸い終えて


隣に寝ている女の頭を撫でる。




「ごめん。今日はもう帰るわ」




「え〜、もうちょっとだけ……」




「明日も朝早いねん」




仕事を切り札にすれば


女が何も言えないと知ってるのに。




「そう。次はいつ会える?」




「時間が出来たらな」





こんな事をしても意味はないのに


誰かの温もりが欲しかった。






仕事仲間で親友のコウちゃんに誘われて


男二人で飲みに行った。




記憶が落ちるほど飲んでも


忘れたい事は忘れられない。




男友達は有難い存在やと思う。




「紀樹! ワッショイキャバクラ行かへん?」




「ワッショイキャバクラって何やねん(笑)」




気分がワッショイになる場所で


悩んでる自分が馬鹿馬鹿しくなる。




メイド喫茶よりも


現実離れしたお祭り空間で


女の子たちも元気で明るい。





明け方。




タクシーの中で


「泣きたい時は泣いとき」と


コウちゃんかに肩を抱かれて


せきを切ったように涙が溢れた。




「紀樹……、はよ合コンしよな」




「せやな」




おぼつかない足取りで玄関へ向かう。


家の鍵を落とすと


コウちゃんが拾って言う。




「部屋まで送ろか?」




「朝までいてくれる?」




「ええけど、どっちがどっち(笑)?」




「どっちがいい(笑)?」




コウちゃんは"一瞬想像してもた"と


舌を出して笑った。




「冗談言う元気があるんやったら大丈夫やな。いつでも飛んでくるから電話してな?」




「ありがとう」




きっともう大丈夫。




あとは時間が解決してくれるから。














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